Vol.51 果実 [2006.12.18]

 11月、勤労感謝の朝。少し遅く起きた私はくだものを山盛りにしていただいた。
洋梨・キウイ・グレープフルーツ。
その大きなお皿を食べながらふと『はじめて食べた日』を思い出した。

 小学校の先生がした『洋梨』の話。
「それがおいしいのよ。実はちょっとぶよぶよするくらいやわらかいんだけどね」
梨は堅いと思っていたから、やわらかい梨というものの想像がつかなかった。
 家に帰って母に聞くと「おいしいよー。色もきれいでね。でもちょっと高い」そう
言いながらも、そのうち買って来てくれた。
ひょうたんみたいな不思議な形。緑色に茶色のそばかすみたいな見かけはなんだか魅
力的。ひとくち食べたらその味は深かった。

 ある日母と開けた、いただきものの箱。すると不思議な銀色の食器。
「なんだろう、これ?」
「グレープフルーツ用だって!」
短い足のついた銀色の丸いお椀と、先がぎざぎざのスプーン、そして先が少し細い、
くちばしみたいな曲線の不思議なナイフ。
「へエエ〜」と言いながらも、それを使う機会はなかなかやって来なかった。当時グ
レープフルーツは、一個何百円もして、母はその食器におやつを盛ってくれたりして
いた。
 でも、その日もついにやってきた。
大好きな祖父がやって来た。おみやげの袋を抱えて。そしてそれは...グレープフルー
ツ!
早速、銀の食器が登場。
「お砂糖をふりかけていただくそうよ」
半分にして丸い銀のお椀に入れ、あの不思議なナイフで外皮と実を切り離す。スプー
ンですくうと水分がとても多くて、瞬く間にできあがったのは、幸せなジュース。
 
 友だちが話題にしていた。
「キウイ、食べたことある?」
『ある』と答えた友だちはこう言った。
「外側と中身が全然違っててね...バナナみたいな梨みたいな...なんとも言えない味」
想像で頭が一杯になった。
そしてまた、私にもその日がやってきた。
毛の生えた不思議でユーモラスな形。
切ると...ハッ。
緑に並ぶ黒い種。丸くきれいに。

******* 

 いつものカフェで、厨房からひそかに小さなお皿が渡された。
「処女作!」
鴨と牡蠣の薫製にオリーブオイル。
「これにはシロでしょ!」
そう言いながら本当は12月からというシャンパンも開けてくれて。
「はい」
イチジクが2切れ、きれいに盛られた皿も又、渡された。
お肉とフルーツなんて取り合わせをはじめて体験したのは、出張で行ったスイス。
『鴨のオレンジ煮』
「もうすぐクリスマスだね、マリコさん」
『食べ物』に心と意味をこめたおせち料理のお正月も間近。2007年がやってくる。 

-END-
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