第51回「どうか気長に・・・」 [2003.8.19]
 前回、連載50回記念で読者の皆様からのメッセージをご紹介させていただいた後、またまた次の様なメールが届きました。

「私が衝撃を受けてからもう半年以上になるでしょうか、an弾手さんのHPに出会いピアノをやめようかと悩んでいた私に続ける決心をさせてくださったのは。」

 3?歳、就職活動中主婦、とおっしゃる(じゃなりんさん)からのメッセージです。
 ・・・本当に嬉しかったです。どこか私の知らない所で、私のつたないコラムをそこまで受け止めてくださる方がいらっしゃるということが。
 1年前、このコラムの第1回に、私はこんな事を書いていました。
「〜という訳で、同じ志を持った人と知りあいになりたくて、あるいは始めてはみたものの、どうも挫折しそうだという人の何かの励みにでもなればと思い、私の体験談を書いてみることにしました。〜」
 こうしてみると、「何かの励み」ぐらいにはなっているんでしょうか。また、「同じ志を持った人」とも、Netを通してお知りあいになることができました。本当にありがとうございます。
 でも、ここで変に力んじゃいけませんよね。マリコさんもおっしゃるように、「andante」って「歩くペースで」ってこと。いつの間にか「allegro」になっちゃって、そのうちアレッ!グロッキー!ってことにならないように、まあ、のんびり行きましょう。どうか皆様も気長にお付合いくださると、嬉しいです!

 ところで、次回から少し趣向を変えたシリーズを始めてみようかと思っています。もちろん、今までの通りan弾手の冷や汗体験談も続きますが、もう少し技術的な面でコード初心者の方の参考になるようなことも書ければ、と思って。今、考えているタイトルは「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法 超入門講座」。略して、「アナ鼻ピアノ」(ちょっと言いにくいかなぁ)です。評判悪かったらすぐやめますけど(笑)。では、次回、また!(続く)   an 弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 さて、日本全国、お盆休みが明けましたね。お仕事によっては「お盆休み? 関係ないよ」とおっしゃる方も多いとは思いますが。私はしっかり休んじゃいました。とは言っても、墓参りに行ったり、本家に挨拶に行ったり、嫁さんの実家に泊まりに行ったり、親せきの仏壇に線香あげに行ったり、同窓会に顔出したり、おまけに流行のBlasterに早々と感染してしまった我が家のパソコンの修復に四苦八苦したり(最後は帰省中のレントが直してくれた!)と、バタバタしながら終わってしまった盆休みでした。でも、日頃会えない人が集まって血縁や旧交を確かめ合うこのシステム、ネット社会が進む今だからこそ、大切にしなくちゃいけないなぁ、と改めて考えさせられた盆休みでした。
−an 弾手−


第52回 「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ための
 コード奏法超入門講座」(その1)」
[2003.8.26]
 さてさて、前回、事もあろうに新連載講座の予告をしてしまいました!・・・ちょっと後悔しています。あれから1週間たっても、なかなか構想がまとまらなくて・・・。漠然としたイメージだけあっても実際に書くとなると、何をどう書いていいものやら。それに「○○講座、なんて偉そうなこと言ってる暇があったら自分自身がもっと練習しろよ!」という声が聞こえてきそうで。
 でも、タイトルは面白半分に「○○講座」、なんて付けてみましたが、ベースはあくまでも初心者おじさんの体験記のつもりです。それに、仲間が集まって、「あ、それはもっとこういうやり方もあるよ」とか「こんな場合はどうしたらいいの?」なんて情報交換ができるような場になったらいいですね。そうだ!「皆んなでつくる入門講座」っていうのはどうですか?皆さんの知恵や体験談も、ぜひ聞かせてくださいね!
 それにピアノや楽器を自分ではやらない人も一緒に楽しんでいただけるような、皆んなが気軽に集まれるページになったら最高ですね。そのうち、オフ会なんかも・・・。(な〜んて、夢だけは広がります)

 前置きはこれ位にして、そろそろ中身に入っていかないと。まず、この「アナ鼻ピアノ」、技術的にはどの辺のレベルで、どの位のことをイメージしているのか、ちょっと整理してみましょう。

●こんな人をイメージしています!

(1)ピアノのコード奏法に興味はあるが、弾き方がよく分からない人。
(この中にはピアノ超初心者から、クラシックピアノならバリバリという人まで含みます)

(2)あまり苦労せずに好きな曲をサラッと弾けるようになりたい初心者の人。

(3)バーやクラブに入ってピアノがあった時、「ちょっと弾かせてくれる?」と言ってさりげなく2〜3曲弾いて女の子の注目を集めたい人。(男性の場合)

(4)同じく、さりげなく2〜3曲弾いて連れの男性の気を引きたい人。(女性の場合)

(5)ちょっと疲れた時、まともな曲を気合を入れて弾く気にはなれないが、その時の気分でサラッと鼻歌でも歌うようにピアノを弾いてみたい人。

(6)コードのメモがあれば、簡単な歌の伴奏ぐらい即興でできるようになりたい人。

(7)テレビ、ラジオ、CDなどで「これ、いいなぁ」という曲を聞いた時、楽譜やリードシートが無くても、何となく近い感じにピアノで再現できたらいいなぁと思う人。

(8)簡単な曲を作曲してオリジナルピアノ曲として自分で弾けたらいいなぁと思う人。

などなど・・・。要するに、あまり本格的ではないが、それなりにサラッとピアノを楽しみたい。しかも、あんまり苦労せずに・・・という「アナタ」をイメージしています。

ついでに、「こんなことはムリです」という例もあげておきましょう。

(1)ピアノの二段譜を見てバリバリ弾けるように・・・はなりません。

(2)ジャズのセッションで、ガンガン合わせられるように・・・はなりません。

(3)コードやスケールの高度な知識をマスターして、バリバリ、アドリブが弾けるように・・・はなりません。

要するに、あまり本格的なことを期待されても困ります。どうかご了承くださいませ。
えーなかなか本題にたどり着きませんね。次回から、やっと講座の中身に入っていけると思います。よろしく!(続く)
an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 この前の日曜日、ボサノバのミニライブに行ってきました。ヴォーカルのユキちゃんがライブやるっていうもんで。20席位しかない小さなピアノバーに、30人は入ってたかな。ほとんど若い人ばっかりで、おじさんはちょっと浮いてましたね。編成はピアノ、Eベース、ドラム、パーカッション、それにヴォーカル。途中、ギターやトランペットが加わったり、ユキちゃんのソロピアノ弾き語りがあったりで、あっという間の1時間。ノリのいいリズムと、ボサノバのちょっとけだるいメロディが連日の熱帯夜にげんなりした体を心地良く癒してくれました。
 ところで、弾き語りも、いいなぁ・・・。
−an 弾手−


第53回 「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法超入門講座」
(その2)まず鍵盤の位置をABCで覚えよう
[2003.9.2]
 さあ、それではご一緒に、めくるめくコード奏法の世界へ入っていきましょう!
 初心者おじさんがガイドではなんとも心もとない話ですが、専門家の先生が書いたテキストは入門書でも何だかいきなり分かりにくかったりすることがあると思いませんか?
 分かっている人にとってはあまりに常識的なことでも、最初はそこが理解できなくて先に進めない、なんてこともありますよね。だから初心者おじさんのガイドもあながちバカにできないんですよ!なんて随分手前味噌な話から始まってしまいました。でも、私がそうだったように、ある朝目覚めるといつの間にか自分の指が勝手にピアノを弾けるようになっていた!という衝撃の世界を、ぜひ、体験してください。まあ、他人が聞いたらヘタクソなピアノかも知れませんが、それはそれとして自分的には新しい世界が目の前に開けてくる感動の瞬間ですよ!
 この先しばらく、鍵盤の形ぐらいは知っているがコードの知識は全くゼロという方を想定して書いてみますので、予備知識のある方およびそんなことに興味がない方は退屈かもしれません。少しだけゴメンナサイ。
 まず、とりあえずの目標は基本的なコードのしくみを理解し、コードネームを見ただけでパッと鍵盤をつかめるようになることです。

●コードって何?
 これについては第8回「コード奏法について」と内容がダブリますので、そちら(バックナンバー)を見てください。

●まず、鍵盤の位置をABCで覚えよう。
 コード奏法では、鍵盤の位置を英語式の名前で呼びます。下の図を見てください。
 ハ長調(key=C)のドの音をC(シー)と言います。そこから上へ順にC(シー)、D(ディー)、E(イー)、F(エフ)、G(ジー)、A(エー)、B(ビー)と呼んで、またC(シー)にもどります。続くオクターブも一緒です。黒鍵は白鍵の半音上は♯(シャープ)を付けて、半音下は♭(フラット)を付けて呼びます。例えばC♯(シーシャープ)、D♭(ディーフラット)という具合です。
 まずはこの英語名を見た時、反射的にどの鍵盤か分かるようにしましょう。
 私も最初はこれがよく分かりませんでした。そこで音階をこの英語名で言いながら弾いてみたり、音をランダムに飛ばし飛ばし弾きながら反射的に音名を言えるように練習しました。ド=Cは何となくわかりますね。Fはファの頭文字みたいで覚えやすい。あと、ラはAだッと強制的に覚えて、あとの分はその間にあるから・・・みたいな覚え方だったかなぁ。Eがなかなか覚えられなかった気がします。でも少しやっていると、だいたい分かるようになってきます。だいたい分かればOKです!そのうち、いつの間にかすっかり馴じんでしまって、最初、こんな事でまごまごしていたことすら、忘れてしまうようになりますから。人間って、何て自分中心なんだろう、と思います。(続く)
an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 9月に入ったというのに、熊本は残暑厳しい毎日です。ところで、天気のいい日曜日、クーラーを効かせながらグランドピアノのフタを一杯にあげて弾いてみると、何となく音の響きが良くなったような気がして、ちょっと上手になったかと錯覚してしまいそうです。梅雨時の、あのグシャッとした気持ちワルイ音とは明らかに違いますね。ピアノという楽器、気候に合わせて音を変えるなんて、まるで生き物みたいで愛着が湧いてきます。それに、こっちの体調や気分によっても、弾くたびに音が違って聞こえるのが、何とも不思議です。
−an 弾手−


第54回 「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法超入門講座」
(その3)コードをつくってみよう
[2003.9.9]
 前回、鍵盤の位置を英語名(C,D,E,F,G,A,B)で呼ぶ話をしました。今回はいよいよコードの「しくみ」の話に入ります。
 いきなり、コードをつくってみましょう。

(図-1)は前回出てきたKey=C(ハ長調)のスケール(音階)です。
このスケールのそれぞれの音の上に白鍵ひとつおきに2つの音を重ねると次の様なコードができます(図-2)。
(鍵盤上で確かめてください)

(発見1)
図-2を見ると、コードネームにも図-1の音名と同じアルファベットが付いていますよね。そうです。コードネームのアルファベットは、そのコードが何の音の上につくられたコードであるかを示しているのです。その元になった音のことを「ルート」と言います。つまり、コードCのルートはC、コードDmのルートはD、・・・という具合です。(図-2の黒く塗った音がそれぞれのコードのルートです)

(発見2)
・・・ということは、コードネームを見たら、その名前のアルファベットの音名(ルート)の鍵盤の上に白鍵ひとつおきに2つ音を重ねればそのコードが弾ける、という訳です!・・・と言いたいところですが、実際はメジャーコードとマイナーコードでちょっと事情が違います。

メジャーコードとマイナーコードの違い
図-2で小文字のmが付いているコードがマイナーコード、付いていないのがメジャーコードです。(メジャーの場合のコード名は、いちいち「メジャー」という言葉は付けずに呼びます)
 ピアノで鳴らしてみるとすぐ分かるように、メジャーコードは明るく、マイナーコードはもの悲しい響きです。音の組合せのどこが違うのでしょうか?
 まずコードC(C+E+G)をジャーンと鳴らしてみましょう。(右手でいいですよ)
 次にEの音を半音下げてE♭にしてみましょう(C+E♭+G)。とたんにもの悲しい響きになりませんか。これがマイナーコードです。Cm(シーマイナー)と表記します。

(発見3)
つまり、コードを構成する3つの音のうち、真中の音がルートから2音上にあるのがメジャーコード、1音半上にあるのがマイナーコードです。メジャーとマイナーの違いはこの半音の違いです。

図-2の各コードも、メジャーコードは真中の音を半音下げるとマイナーコードになります。
マイナーコードは真中の音を半音上げるとメジャーコードになります。
ピアノで弾いて鍵盤の位置と音の響きを確かめてください。(右手でいいですよ)

ところで、図-2を見ると1つだけ他と違った表記のコードネームがありますね。
(ビーマイナーフラットファイブ)。この-5は♭5とも書きますが、ルートから数えて5番目の音(5度、と言います)が半音下っているという意味です。Bmというコードは本来(B+D+F♯)ですが、図-2はKey=Cのスケールの上に音を重ねてコードをつくったので、 F♯じゃなくてFになっていますよね。だから5度の音、F♯が半音下がってますよ、という意味で、-5が付いているのです。

 という訳で、文章で書くと少々理屈っぽい話になってしまいましたが、コードのしくみとメジャー、マイナーの違いが何となく分かっていただけたでしょうか?コードにはこのほかにも、色々な種類がありますが、まずはここまでのところに慣れてください。実は図-2のコードのうちのいくつかを使うだけでも、すぐに沢山の曲が弾けてしまうのです!しばらくこのコードで遊びながら、一気に曲の演奏まで行ってしまいましょう!(続く)
an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 先日、残業の後、夜10時頃会社を出て、駐車場まで歩いていた時です。何気なく空を見上げたら、さん然と輝く赤い星が目に入りました。あッ、あれがあの火星だと、私にもすぐ分かりました。6万年ぶりの大接近とニュースで騒いでいるのは知っていましたが、わざわざそのために夜空を見上げる様な心の余裕もなくて、その日、本当に偶然の出会いでした。フッと息をはいて、しばらく見上げてしまいました。
 じっと見ていると距離感がなくなってきて、すーっと夜空に吸い込まれていくような気がしました。どこからか、美しいピアノの調べでも聞こえてきそうな、そんな一瞬でした。
−an 弾手−


第55回 「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法超入門講座」
(その4)コードの転回形で遊んでみよう
[2003.9.16]
 あるジャズピアニストが雑誌のインタビューで、こんな話をしていたのを読んだ記憶があります。
「クラシックでは演奏者は作曲家が書いた楽譜にいかに迫るかを目指すけど、ジャズでは楽譜からいかに離れるかを目指す…」と。
はあ、そんなものか、と思ったものです。
で、初心者おじさんの(超)入門講座で何でこんな話かというと、先週のコードの話、何だか理屈っぽい話になっちゃいましたが、あれはあれでたったあれだけの話でも、実際に鍵盤の上で遊んでみると、結構、色々な発見や疑問に遭遇して面白いものですよ〜、という事を言いたくて。
このコラム、素人おじさんの素人講釈ですから読んでる人にあまり真面目に迫ってこられても困るんで…。適当に想像力をふくらませながら読んでいただくと楽だな〜なんて、横着なことを考えている次第です。

それでは、前回のコードの話から、どんな発見や疑問に遭遇しそうなんでしょうか?
私自身がコードを習い始めた頃のことを思い出しながら、例えばの例を考えてみました。
ここに前回の図をもう一度出しておきます。

(疑問1)ふーん、コードってそういうものか。でも、これをどう使ったら曲になるの?

ごもっともです。でも、あせらないで!もうちょっとコードの使い方を覚えてから曲への応用に入りますから。今のペースで、あと1ヵ月ちょっとすればコードで曲が弾けます!(…たぶん)

(疑問2)前回、コードはルートの上に音を2つ重ねると言ったけど、重ね方はいつも同じでいいの?

この疑問は、前回の音符と鍵盤の絵をじっと見ていても多分、湧いてきませんよね。実際にピアノで何回も音を鳴らしてみて、そのうち飽きてしまって、ちょっと色々イタズラで違う音を出してみたりしていると、ふと疑問が湧いてきたりするかもしれません。
 実は、いつも上記の音符の通りに音を並べる必要はありません。というより、実際の演奏では並べ方を変える方が多いです。鍵盤の絵で見てみましょう。
例えばコードCの場合です。
この3つの押さえ方は、どれも(CとEとG)の音の組み合わせで、並び順が違うだけです。これは響きとしては全部同じコードCとして機能します。要するにコードを構成している音(コードの構成音)が同じなら、順番は自分で自由に決めればいいんです!(もっとも、曲の流れの中で、望ましい順番の法則はありますが)
C以外のコードも考え方は同じです。鍵盤上で、ぜひ試してみて下さい。ものの本によると、それぞれの配列には図に示すように基本形、第1転回形、第2転回形という名前があるようですが、別にそんな名前は覚えてなくても曲は弾けます。それよりこの3種類の押え方を、鍵盤の上でコードネームを言いながらパッと押さえられるように遊んでみることです。(この3種類の押え方の使い分けについては、次の次の週くらいに書いてみるつもりです。)最初はパズルみたいで頭が混乱しますが、これもすぐ慣れますから全然心配はいりません。(鍵盤の形で覚えましょう)
下にC以外のコードの転回形を載せておきます。必ず鍵盤上で試してみて色々な発見を楽しんでください!

(続く) an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 我が家に、今、猫が棲み付いています。
もう1ヵ月以上なるでしょうか。ベランダのウッドデッキの下に2匹いるのを発見しました。子猫です。初めの頃は、人間の姿を見るとパッと身構え、次の瞬間にはどこかへ姿を消していました。でも最近はすっかり慣れてきたらしく、目が合っても落ち着いたものです。
 この前の休日、ウッドデッキの上に2匹揃って長々と体を伸ばし、昼寝を楽しんでいました。一匹はあおむけになって両の前足を頭の上に上げた大胆なポーズ、もう一匹はその足の上にアゴを乗せて気持ちよさそうに目を閉じていました。かすかに秋の気配を含んだ風が、彼らの上の梢の影を時折揺らしていきます。
 こんな静かな昼下がりはポロポロッと鼻歌まじりのピアノでしょ、としばらく弾いてまたのぞいたら、もう彼らの姿は消えていました。子守唄にはちょっとマズかったかな(笑)
−an 弾手−


第56回 「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法超入門講座」
(その5)ちょっと寄り道
[2003.9.22]
 さてさて、先週も、もっともらしい絵をいっぱい出してしまいました。
鍵盤や音符の絵が出てくると、いかにも音楽理論っぽくてむずかしそうに見えるかも知れませんが、実際にピアノで音を出してみると、ごく単純で、あまり大したことも言ってないというのが、すぐお分かりになると思います。
 先週は、コードの転回の話でしたね。要するに、コードの構成音は鍵盤の上でどんな順番(配列)で並べてもいいんだ!っていうことでした。

では、ここで問題です!
次の鍵盤の絵のようにコードを弾いたとします。
さて、これは何と言うコードでしょう?

ウーン、むずかしい…。
Cでもないし、Eでもないし…。
そうか!Am(エーマイナー)の転回形だ!と思った方、スバラシイ!
前回の転回形の話をよく理解していらっしゃる。
…でも、実は、残念ながらこの絵だけではコード名を特定することができないんです。
前々回の話しで、コード名は、そのコードの元になった音(ルート)の音名をもってくる、ということでした。ところが、問題の鍵盤図では、どの音がルートか分からないじゃないですか。コードを転回してしまえば、どれがルートだったか分かりませんものね。
さて、どうしましょう。・・・簡単です。「ルートはこれだッ」と自分で宣言してしまえばいいんです。でも、どうやって宣言するの?
例えばピアノソロだったら、左手で鍵盤の低い位置で、自分がルートにしたい音をガーンと鳴らせばいい。それで決まりです。
 
 さっそく、さっきの鍵盤図です。右手でこの通りに押さえながら、左手で低い位置のAの音をガーンと鳴らしてみましょう。その瞬間に、このコードは、おっしゃる通りAm(の転回形)になります。それでは、右手はそのままで、左手でCの音をガーンと鳴らしてみましょう。すると、今度はC6(シーシックス)というコードになります。(AはCから数えて6番目の音なので、6を付けてシーシックスと読みます。)
 それじゃ次にFの音をガーンと鳴らしてみましょう。すると、Fmaj7(エフメジャーセブン)というコードになります。さらに、もう一つ、F♯の音をガーンと鳴らしてみましょう。すると、エフシャープマイナーセブンフラットファイブ(アルファベット表記はテキストでうまく表現できないので省略します!)という、ジャズやポピュラーによく出てくるカッコイイ響きになります。
このように、同じ3音の組み合わせでも、ルートが違えば全然違ったコードになるんです。実はこの理屈は私もだいぶコードに慣れてきてから初めて意識したことです。
それまでは何の疑問もなくリードシートのコードネームを見て素直にコードの転回形を押さえていました。

 今週の話は、コード初心者の方にはかえって頭が混乱するだけだったかも知れません。でも、あまり気にしないで下さい。とりあえず良く分からなくても全然問題ありませんから。コードの入門編としてはちょっと横道にそれちゃいました。来週から、又、もとの道に戻って、いよいよコードで曲を弾くための準備に入ります!(続く)  an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 やっと秋らしい爽やかな青空が広がった日曜日、急に思い立って、なぜかリンゴ狩りに出かけました。熊本でもリンゴが実るらしいんです。観光農園の場所もよく確かめず、とにかく「阿蘇の方に行くとあるらしい」という情報だけで出発したので行き当たりバッタリ。結局行き着かないかなぁとあきらめかけた時、突然「リンゴ園入口」の看板を見つけて急ブレーキ。何とかたどり着きました。入っていくと巨大な虫よけネットの中にリンゴの木がいっぱいありましたが、何となく実が小さく、ちょっと寂しいなぁ。中にいた野良着のおばちゃんが「今年は天候不順で・・・」と苦労話をひとしきり。それでもカゴいっぱいのリンゴを摘んでひと満足です。
 帰りの車中で、ふと、以前行ったことのある青森は津軽のリンゴ園を思い出しました。そう言えばあそこのリンゴの木は大きくて、人が登れるような枝に大きな実がいっぱい下がっていたなぁ。やっぱり本場モンに迫るのは大変なんだなぁ。
−an 弾手−


第57回 「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法超入門講座」
(その6)コードに生命を吹き込むコード進行
[2003.9.30]
 ここ数回、コードの話をしてきました。でも、コード理論をクドクドと書くのがこのコラムの目的ではありません。そういう話だったら、街へ行けば理論書や入門書が一杯並んでいるし、ホームページで「ピアノ コード」や「ピアノ 初心者」「ピアノ ジャズ」等と検索してみると役に立つサイトが山ほど出てきますよね。何も初心者おじさんが今さら二番煎じ、三番煎じを書く意味もない訳でして・・・。
 このコラム、と言うかこの「・・・コード奏法超入門講座」の目的は、何と言っても「バーやクラブでポロポロンとさりげなくピアノを2〜3曲弾いて羨望のまなざしを集めてみたい」という、多くのおじさんが心に抱いている永遠のあこがれを、あこがれに終わらせず、この際一気にやっちゃいましょう!という一大プロジェクトなのであります。(女性の方、ゴメンナサイ。女性の方は「おじさん」のところを「おばさん」とか、あるいは「お嬢さん」とかに読み替えていただければ結構です。)
 でも、このプロジェクト遂行のためには、まずは腹ごしらえ、足ごしらえ、道具立てが必要なもので、とりあえず最低限必要な七つ道具(必須アイテム)をひとつ、ふたつと準備している段階であります。これには単なるコード理論、演奏テクニックのほかに、お酒を飲みながら店のお客さんや女の子の呼吸を読む、という裏ワザアイテムも必要になってきますが、その辺はおいおいご一緒に研究してまいりましょう。
 
 では、ここまでに手にしたアイテムを点検してみましょう。

鍵盤の位置は英語読みでC、D、E 、F、G、A、Bと呼ぶ。(第53回)
2 逆に、この英語名を見たら反射的に鍵盤が押さえられるようにしておく。
3 コードはこの英語名の鍵盤の上に音を重ねてつくる。(第54回)
4 コードをつくる元になった音をルートと言う。コードネームの大文字アルファベットがこのルートを表している。(第54回)
5 コードの構成音の順番は、弾きやすいように並べ替えて構わない。(第55回)

 というところでしょうか。(ね!「入門講座」の前にわざわざ「超」が付いている理由がお分かりでしょう?)

 さて、ここまでのアイテム集めを第1ステップとするなら、ここから次の第2ステップが始まります。第2ステップはこれらのアイテムを組み合わせて、いよいよ曲を弾いていくための準備です。
 コードは、それ単体では、あまり意味がありません。曲の中で、時間の流れに添っていくつかのコードがつながった時、その前後のコードの関係の中で初めて意味を持ってきます。(なんか抽象的で分かりにくい文章だなあ・・・)
 このコードの並びのことを「コード進行」と言います。コードは「コード進行」という形で意図を持って並べられた時に、初めて生命が吹き込まれるのです。同じコードでも、前後の「コード進行」によって、その働きも、実際耳に聞こえる情感も全く違ってくるからです。(ますます抽象的だぞ〜)

 抽象論はいい加減にして、実例を見てみましょう。
 極めて短くて、しかも完結しているコード進行の例です。

 ピアノで弾いてみると、極めて短いけれど、一応、曲の始まりと終わりの感じがするでしょう?Gはコードの転回形を使っています。(第55回参照)

次は1つコードが増えている例です。

では、これはどうでしょう。

 こうなると、何となく曲らしくなってきたでしょう?このコード進行を何回か繰り返してこれにメロディーを乗せていけば、立派な曲になるはずです。

 コードはC以外は転回形(第55回参照)を使っています。どんな押さえ方でもいいんですが、コードの押さえを変える時になるべく押さえやすい(指の動きの少ない)形を選ぶのが原則です。でも、あくまでも原則ですから場合によっては音が大きく動いた方が面白いこともあります。自分で色々試して雰囲気の違いを楽しんでみてください。

 来週は、これに左手でベースを加えてみます。それだけで、もう堂々とした立派なサウンドになりますよ。(続く)
an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 先日、東京方面にお住まいの女性からメールをいただきました。長年クラシックピアノを経験され、1年前からジャズピアノを習い始められたとか。前回の第56回「ちょっと寄り道」を読まれて「目から鱗」と書いてあったのには、私の方がビックリしてしまいました。
 実は確かにちょっとした変化球ネタのつもりではあったんですが、しっかりそのポイントを突いてメールいただくなんて、嬉しい限りです。この方への返信にも書きましたが、「毎週、闇の宇宙に向かって話をしているようなもの」ですから、闇の向こうからひと言、声を掛けていただくと、ホッと温ったかい気持ちになります。感謝です。
 これからも一緒にピアノを楽しんでいきましょう!
−an 弾手−


第58回 「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法超入門講座」
(その7)一気にコード奏法の世界へ
[2003.10.7]
 さあ、今週はいよいよ両手で弾きます。先週出てきた3種類のコード進行を弾いてみましょう。単純ですが、結構ピアノを弾いている!という音がして、私なんかワクワクしたものです。左手は、各コードのルートを弾きます。譜面にすると、次の様になります。



 どうですか?右手だけで弾いていた時と比べて、ずっと落ち着いたサウンドになったでしょう? では、どんどん先に進みましょう。次は左手をオクターブで弾いてみましょう。左手の親指と小指を1オクターブの幅に広げてください。女性の方や、手の小さい方は少し苦しいかも知れませんが、頑張って広げてくださいね。譜面にすると次の様になります。



 弾いてみると、かなり迫力あるサウンドになったでしょう?今までピアノを弾いたことがなかった人だったら、ここまで来ると「俺もピアノ弾いてるんだ!」という感慨に、ちょっぴり浸れるかも知れません。それ位の堂々とした音がします。 さあ今週は、どんどん進みますよ!
 ここまでは説明のために弾くべき音を全部音符に書いていましたが、これは本来のコード奏法のやり方ではありません。コード奏法ではコードネームだけ見て、弾くべき音(鍵盤)を自分で探すことが必要です。その練習をしましょう。上と同じコード進行を書きますので、自分で同じように弾いてみてください。

場合によっては、次の様に書くこともあります。

あるいは

 どれも言っていることは同じです。ただ、コード奏法、とひと口で言っても弾き方は色々ありますが、ここではとりあえず、左手でそのコードのルートをオクターブで押さえて、右手でそのコードをつながりのいい転回形で押さえていくという弾き方をしてみます。音符なしで、コードネームだけ見て両手で弾けるようにしてください。鍵盤の形で覚えましょう。

 ここまで来たら、もう、歌の伴奏や弾き語りは射程圏内に入っています。ビートルズのLet It Beなんか、ほとんどここに出てきたコードだけで弾けちゃいます!そうそう、そう言えば私がコードを習って最初に弾いた曲が、このLet It Beの伴奏形でしたっけ。
 参考までに、そのコード進行を書いてみます。(イントロ、エンディングは省略してます)バンドの演奏なんかでは、大体この程度のコード進行のメモを見て演奏することが多いです。

 今週はちょっと走ってしまいましたね〜。分かりにくかったら、「分からんゾー」と言ってくださいね!でも、単なるコード(和音)の話から、一気にコード奏法の世界に入った感じがしませんか?これからいよいよ面白くなってきますよ!(続く→毎週火曜日更新) 
an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 今日(10月7日)は仕事で熊本市の西にそびえる金峰山という山を越えて、有明海を望む河内(かわち)という町に行ってきました。途中、夏目漱石の小説、「草枕」に出てくる峠の茶屋で一服し、更に車を走らせて宮本武蔵が五輪書(ごりんのしょ)を書いたと言われる霊巌洞(れいがんどう)の近くを通り小一時間で河内町に到着です。ここは海に迫った山の斜面に見渡す限りのミカン畑が広がっていて壮観です。まだ緑色ですが、もうしばらくすると山全体が黄色に染まることでしょう。日頃、街なかのオフィスとネオン街を徘徊している私としては、車でひと走りのところにこんな別世界があるのを改めて体感した一日でした。
−an 弾手−


第59回「ここで弾くべきか? 弾かざるべきか?」 [2003.10.14]
 先日、とある女性と天草までドライブに行きました。皆さん、天草(あまくさ)ってご存知ですか? 天草は熊本県の西の海に浮かぶ大小120余の島。碧い海に真珠をちりばめたような風景や、実際に真珠の養殖が盛んなことから、島々を橋で結ぶドライブルートには天草パールラインという愛称も付けられています。今回は、この天草に向かうドライブの途中でのお話です。

 ・・・ん?コード奏法の話はどうなった? 
 ハイ、ごもっともです。まあ、前回まで理屈っぽい話が続いたので、ここらでちょっと気分転換でもしようかと思って。もしも先週までの「〜超入門講座」を真面目に読んで下さっている「殊勝なコード初心者」の方が地球上のどこかにおられたら、どうか、今週は新しい理屈はお休み、ということで、先週までのところをコードネームだけでサッと弾けるようになるための時間に当てていただくとうれしいです。今後のコード奏法の話が、とてもスムーズに進むようになると思いますので。
 という訳で、今回は久々に私、an弾手のピアノエピソード新着ネタのご紹介で〜す。
 
 さて、熊本市内から西へ車を走らせること1時間余、天草最初の島・大矢野島が目の前に迫ってくる岬の先端に、明治時代にヨーロッパの技師によって造られたという港、三角西港(みすみにしこう)があります。現在では実際の港としては使われていませんが、当時のままのノスタルジックな洋館や石積みの埠頭などが残っていて、そのロマンチックなムードからデートスポットとしても、つとに有名な所です。私達もここに車を停めることにしました。外に出ると、プーンと潮の香り。目の前におだやかな海が広がっています。遅い午後の陽の中でしばらく深呼吸してから、さて、軽くお茶でも、と海に面したカフェレストランに入りました。(熊本の人なら、ご存知ですよね。あのレストランです)
 ここも当時の洋館をそのまま活かしてレストランに改築されたもので、高い天井の梁や縦長の大きな窓などに、レトロな香りが漂っています。見ると、部屋の一角にドーンとグランドピアノがあるじゃありませんか!(やっとピアノの話が出てきました。以前からの読者の方でしたら、何となくこの先の展開が見えてきたでしょ!)
 彼女が抹茶セットを、私は特製サンドのティーセットを注文して、ゆっくり店内を見回します。離れた席に若いカップルが一組、海側のテラス席に中年のご夫婦が一組。がらんとした店内は午後のけだるい空気に包まれ、ここだけ時の流れが止まったかのようです。
 注文の品が出てきました。サンドイッチをほおばりながら、私の心は揺れています。そうです。ここであのピアノを弾くか? 弾かざるべきか? という命題に直面している訳であります。読者の中には、こういう場面ではan弾手はホイホイッ、とピアノに触りたがる、とお思いの方もいらっしゃるかも知れませんが、そんなに単純でもありません。その場の空気を測りながら、私も一応、「・・・どうしよう」と悩むんですよ。
 そんな揺れ動く私の気持ちに一つの結論を出してくれたのが、向かい側で抹茶をすすっていた彼女の、何気ない一言でした。(続く→毎週火曜日更新)
an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 このコラム、このところ更新時刻が遅くなってしまって、申し訳ありません。一応、火曜日更新のルールは守ってるんですが、アップの時間が夜中になったりして・・・。
 ここ数回、コラムの最後にわざわざ(毎週火曜日更新)と書き始めたのも、「なんだ、今週は更新してないじゃないか」と思われないような注釈のつもりです。遅くなっても火曜日中(日本時間)には更新しますので、どうかよろしく!・・・言い訳とお詫びの一言でした。
−an 弾手−


第60回「ハマリ過ぎ?」 [2003.10.21]
 明治時代の洋館を改築したレトロなカフェレストラン。窓の外には傾きかけた秋の陽を浴びた、静かな海が広がっています。ガランとした店内に置かれたグランドピアノを横目でチラチラ見ながら、私は、弾こうか、やっぱりやめとこうか、とまだ決心がつきかねていました。その時、テーブルの向い側で抹茶をすすっていた彼女が、1人ごとのようにつぶやきました。
「ここ、ピアノがあるけど、誰も弾く人がいないのね」
 なるほど。グランドピアノの大屋根は半分開いた状態で、今にもピアニストが現われれてポロポロポロンと弾き始めるのを待っているかのようにも見えます。そう思った瞬間、私のイメージの中にはそのピアノの前に坐って弾いている自分がいました。
「あのピアノ、弾いてあげなきゃ可哀相でしょう」

 弾くことが決ったら、次は何を弾くか、です。私の乏しいレパートリーの中から、この場にふさわしい曲を無理矢理探さなくてはなりません。ノスタルジックで静かな店内。窓の外はおだやかな海。う〜ん、これしかないでしょ、って曲が手持ちの引き出しの中にありました!「ひき潮」。これだったら最近何回か弾いてるし、最後までトチらずに弾けるかな。よーし、次は弾くタイミングだ。あれこれ思い悩んでいるうちに、向こうにいた若いカップルは出て行ってしまったし。おっと、団体さんが入って来たぞ。ちょっと雰囲気こわれそうだな。1、2、3・・・6人かあ。海側のテラスに坐るぞ。うち2人はまだ坐らずに店内をウロウロしてるなぁ。あ、1人がトイレに行った! さっきまで静かに立っていたウェイターとウェイトレス2人が、急にバタバタと店内を往復しはじめたじゃないか。こりゃ、ピアノ弾くタイミングじゃないなぁ。少し様子を見るか。

 ・・・待つこと10分。やっと団体さんの注文の品も出揃って、店内に再び静寂が訪れました。ウェイターも部屋の隅に静かに立っています。今だ!私は軽く手を挙げてウェイターを呼びました。
「はい、何でしょう?」
「ちょっとピアノを弾かせてもらっていいですか」
「・・・・・・」
ウェイターは一瞬、私の思いもよらない言葉に心の準備が追い付かないと見え、沈黙の時間が流れました。(無理もないか。この店でこんなこと言い出す客もいないだろうな)
やっと我に返ったウェイターは少しひきつった笑みを浮かべながら
「少々お待ち下さい」と言い残して足早に厨房の奥へ消えました。
(誰か、偉い人に相談に行ったな)

 ・・・なかなか戻ってきません。困った客をおこらせずにやんわり断る方法でも相談しているのかな。あんまりイヤな顔されるんだったら、ここはやめとくか・・・と私もちょっと弱気になりかけた頃、やっとさっきのウェイターが戻ってきました。
「それでは、どうぞ。ただ、ちょっと音が狂っているかもしれませんが。」
「イヤー、大丈夫ですよ。ちょっと弾くだけですから。」
と私も笑顔をつくりながら席を立ちました。

 ピアノの前に掛けると、フタを開けてペダルの位置を確認します。最近では、なぜか鍵盤を前にするとドキドキが消え、スッと落ち着けるようになりました。
 静かにイントロを弾き始めます。私の背中の方にいるテラスの団体さんから、
「あ、ピアノだ」
という会話がかすかに耳に届いて、こちらに注目されている気配を感じます。
 このピアノ、弾いてみると、調律はちゃんとしているみたい(私としてはほとんど気にならない)だし、タッチが気持ち良くて、ダイナミックレンジが広いというか、少し気持ちを乗せて弾くと敏感に反応してクレッシェンドしてくれるし、とてもいい気持ちで弾き進むことができました。途中、いつも間違えそうになるDmにミのメロディが乗っているところで何か違うコードを弾いちゃったみたいだけど、初めて聞く人は多分気付かない位のミスだ。あとはほぼ、自分としては完璧に弾けたかな。最後は左手で一番低いC(白盤の左から3つ目)をガーンと鳴らし、Cシックスナインスのアルペジオでritしながらパラパラパラと上って行き一番右上の白盤(C)をカキッと鳴らして終わるという、もったいつけたエンディングでしめくくり。グワーンという余韻を引っぱりに引っぱり、最後にダンパーペダルを上げてスッと音が消えた瞬間、テラス席の団体さんと、部屋の隅にじっと立って聞いていたウェイター、ウェイトレスの皆さんから思いがけない拍手が。ここは調子に乗って2曲目に行ったりせず、スッとフタを閉めて席に戻りましょう。
 こういう場面では、演奏内容が半分、空気の見極めとタイミングが半分。引き際も大切ですよね。独演会じゃないんだから。
 まあ、演奏内容はともかく、ピアノを弾くシチュエーションとタイミングとしては、なかなかうまくいったかな。

 ところで、この話にはもう一つオマケがあります。レジを済ませて外に出ると、先に出ていた彼女が「ホラ」と言って上の方を指差しています。私は一瞬、何のことか分からず、「何?」と聞くと、「ホラ、あれよ」。
 良く見ると、何と彼女が指差している夕暮れの空に、きれいな虹がかかっているではありませんか。舞台演出としては出来すぎ、と思いません?
「いやぁ、これで今、虹のかなたに、でも弾いていりゃ、言うことなかったなぁ。でも、まあいいか。」
・・・あんまりハマリ過ぎも気持ち悪いし、ですね。 (続く→毎週火曜日更新)
an弾手(andante)

ちょっと、ひと言。
 きのう(10月20日)熊本県庁に行ったら玄関前のプロムナードで有名人(!)を見掛けてしまいました。20人ほどの人と、テレビの取材クルーの向こうにいたのは、ペルーのフジモリ元大統領。先日の新聞に、出身地の熊本市河内町を訪問されたとの記事が出ていたので、すぐにそれと分かりました。印象よりずっと小柄な方ですね。2006年の大統領選出馬に向けて意欲満々だそうですが、あの小さな体のどこにそんなエネルギーがあるんだろうと、最近疲れ気味の自分と比較して(バカッ!そんなもん、比較するなッ!!)考えてしまいました。
 あのフジモリスマイルも健在で、とてもお元気そうでしたよ。頑張ってください!!
−an 弾手−
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