第571回 「an弾手ピアノライブSweet Piano Night 秋から冬へ・遠い記憶の旅。開催しました」その@ [2015.12.1]
 ピアノの席から客席を見ると、ステージを照らすライトが眩しくてお客さんの顔はほとんど見えません。でも、そのライブハウスを一杯に埋めたお客さんの黒いシルエットから、じっとこちらを見つめている空気感が伝わってきます。シンとした会場に、私のナレーションの声が流れます。

 『……あれは確か、私が20代の頃、東京で会社勤めをしていた時のことです。秋の連休の頃だったかと思います。
 東京から一人で汽車に乗って、新潟の日本海の見える所まで行きました。その頃は、いえ、今でもそうですが、私は一人旅が好きなんです。もう夏も過ぎていましたから、海岸に行ってもほとんど人影はありませんでした。日本海の向こうに、遠く佐渡島がかすんで見えました』

 そんな語りをしながら、バックに軽くピアノのBGMを入れていきます。
 an弾手ピアノライブ Sweet Piano Night「秋から冬へ。遠い記憶の旅」の始まりです。

 続いて、都浩子さんのナレーション。

 海は荒海 向こうは佐渡よ
 すずめなけなけ もう日は暮れた
 みんな呼べ呼べ お星さま出たぞ

 そのバックにも、私an弾手のピアノBGMが流れます。
 ……そして、「砂山」の演奏へ。

 1st Setはそんな日本の抒情歌を中心に、自分の若い頃や幼い頃の秋冬の記憶を辿りながら物語が進んでいきます。そして1st Setの後半で福田満美さんのオカリナ。「故郷」と「里の秋」をピアノとあわせて頂きました。乾いたピアノの音にオカリナのシットリした響きが重なって、懐かしい記憶の中の情景を描き出してくれました。

 そして2nd Set。こちらも今回の新たな試みとして本格的な朗読とピアノのコラボに挑戦してみました。
 『……遠い記憶は、夢か幻か、はたまた現実の出来事だったのか、混沌としてくることもあります。でもそれがたとえ幻であっても、それはそれで人生に深い味わいをプラスしてくれるものではないでしょうか。
 思えば、世の中の多くの芸術家や文学者も、たくさんの夢を私たちに見せてくれています。文豪、夏目漱石の「夢十夜」も、そんな不思議な夢の世界のひとつではないでしょうか。「こんな夢をみた」で始まる十篇の話のなかから、今夜は「第一夜」の不思議な夢の世界に、皆さまとご一緒に入ってみたいと思います……』

 私のそんな語りに続いて、都浩子さんの朗読が始まります。
 『こんな夢を見た。腕組みをして枕元に坐っていると、仰向けに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真っ白な頬の底に……』

 そんな朗読の声に、私がピアノのBGMを被せていきます。一応コードのメモは用意していますが、どこでどう弾くかは朗読の流れを聞きながらほぼ即興です。

 そして……
 おっと、長くなりそうなので続きは次回に〜。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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 随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
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ちょっと、ひと言。

 昨日今日と、こちら熊本はいいお天気です。先週後半の真冬の様な冷え込みから一転、明るい陽射しに気温も上がっているみたいです。
 それにしても今日は12月1日。ついに師走突入〜〜〜! あっという間ですね。
今週、来週とイベントや忘年会が続きそうです。体調管理に気を付けながら乗り切りたいと思います。皆さまも今年最後のひと月、お楽しみください。
 あ、そうだった、年賀状も考えなくちゃ。

 
−an 弾手−


第572回 「an弾手ピアノライブSweet Piano Night 秋から冬へ・遠い記憶の旅。開催しました」そのA [2015.12.8]
 2nd Set、都浩子さんによる夏目漱石「夢十夜」の朗読と私のピアノが始まりました。(前回、第571回からの続きです)

 『…日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう。そうしてまた沈むでしょう。…赤い日が東から西へ、東から西へと落ちていくうちに、…あなた、待っていられますか』

 そんな朗読にあわせて、私はコード進行のメモを頼りにピアノの音を入れていきます。

 『自分は黙って首肯(うなず)いた。女は静かな調子を一段張り上げて、「百年待っていてください」と思い切った声で云った。「百年、私の墓の傍(そば)に坐って待っていてください。きっと逢いに来ますから」……』

 女はそう言ってぱちりと眼を閉じた。死んだ女を真珠貝で掘った穴に埋め、星の破片(かけ)の落ちたのを拾って来て土の上に墓印として乗せる主人公。その横に坐り、毎日毎日赤い日が勘定しつくせないほど頭の上を通り過ぎていくのを見ながら、女が会いに来るのをひたすら待つうちに、石の下から伸びてきた青い茎が、胸のあたりまで来て留まり、一輪の蕾がふっくらと弁(はなびら)を開く。

 『……自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁(はなびら)に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
 百年はもう来ていたんだな、とこの時初めて気がついた』(完)

 ピアノの最後は黒鍵だけのペンタトニックスケールに続けて、一転F―A♭―B♭―Cというコード進行に進んで、主人公が遠い暁の空を見上げて話が完結する情景感を出してみました。

 「百年という時の流れと、それでも変わらない悠久の自然の営み。そんな中で、私たち人間の存在は本当にちっぽけで切ない様にも思えてきます。ただ、だからこそこうして一瞬一瞬の出会いも大切にしていきたいと思います。今日はおいで頂いて本当にありがとうございました…」
 会場一杯のお客さまに向かって、私はそうコメントしました。

 さて、その後はこの夢十夜の中に出てきた「天から落ちて来る星の破片(かけ)」という言葉に掛けて、ジャズのスタンダードナンバーから「スターダスト」を演奏、そして同じく星の破片(かけ)から連想する舞い落ちる雪に掛けて、「雪が降る」「雪の降る街を」「白い恋人たち」。自分の語りと浩子さんの歌詞朗読を絡めながら曲を続けていきます。

 2nd Setは1st Setの日本の抒情歌とはグッと雰囲気を変えて大人のムードで。情景の語りを入れながら「別れの朝」「酒とバラの日々」と続いて、一足早くクリスマス気分へ。「ホワイトクリスマス」「戦場のメリークリスマス」とつないでいきました。

 「秋から冬へ。遠い記憶の旅」は、こうして会場一杯のお客さまと一緒に様々な記憶の中を旅することが出来て、本当に幸せなひと時でした。

 ライブの後、お客さまから温かいコメントをたくさん頂きました。
 『前回よりさらに進化し、ライブを通して1つの物語の中にいるような素敵な試みが盛りだくさん(^^) 優しいピアノの音色とan弾手さんの穏やかなMC、ミンミンさんの落ち着いた語り、懐かしい気持ちにさせるマミさんのオカリナも疲れた心身に染み渡りました』とは、いつも私のライブに来て下さるジャズヴォーカリストの方。

 『とっても素敵なコンサートをありがとうございました(*^_^*) とっても感動しました。おかげで、感動のあまり久しぶりになかなか眠れず、やっと6時半に寝れました(笑) 特に《戦場のメリークリスマス》は感動し、涙が出てしまいました(T^T) また聴きに飛んで伺いますね(*^^*)(笑)』とは、今回私のライブのために県外から新幹線で駆け付けて下さった方。

 『まるで景色の移り変わる描写の中にいるような素敵なひとときでした。うっとりと心地よく癒されました。この場所にいられたことに感謝いたします』とは、もう何年も前に熊本県立劇場のKENGEKI@Liveに出演させて頂いた時にお世話になった司会者の方。

 『物語がある素敵な時間でした。自分の世界と音楽が重なって1日の終わりにとても癒されました♪〜新たなご縁にも感謝です』とは、オハイエくまもとの活動でお世話になっている方。

 『心にスーッとしみこむ音色に本当に癒やして頂きました(*^-^*) ありがとうございました』とは、プロのソプラノ歌手の方。

 他にもたくさんの方から身に余る温かいお言葉を掛けて頂き、お土産、花束まで頂いて感激です。
 来て頂いたたくさんのお客さま、そして、共演して頂いた朗読の都浩子さん、オカリナの福田満美さん、そして素敵な会場を提供して頂いたライブハウス酔ingさん、ありがとうございました!



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
 昨日は朝から、仕事(本業)で農業研究施設に取材に行きました。熊本県が10年の歳月を掛けて開発したイチゴの新品種「ゆうべに」です。天気が良かったので、ハウスに入ると暑い位。真っ赤なイチゴが実っていました。試食もさせてもらいましたが、甘味と酸味が程よくマッチした芳醇なおいしさでした。
 「ゆうべに」とは、熊本の「熊(ゆう)」とイチゴの「紅(べに)」からとったネーミング。11月から全国に出荷が始まっているそうなので、見掛けられましたらぜひ食べてみてください。
 
−an 弾手−


第573回 「貴重な体験?爆笑・肥後シャンソニエの伴奏」 [2015.12.15]
 さっきから落ち着きません。さて、どうしよう…。だんだん自分の出番が近づいて来てるんだけど…。

 その日は、広いライブハウスを貸切ってのオハイエくまもと交流ライブでした。オハイエくまもとの役員、実行委員はもとより、色々な形で支援して頂いている人たちや、そのまた知り合い友人まで声を掛けて、約100名以上の人達が楽しく集っています。ステージは、ピアノソロあり、バンド演奏あり、歌あり、賑やかに盛り上がっているのですが、会場(客席)も知り合い毎のテーブルでステージに負けず劣らず大盛り上がり。ステージの方を見て演奏を聴いているのは客席の前の方3列位? あとはそれぞれのテーブルでそれぞれの会話が盛り上がっていて演奏もまともに聴こえない状態(笑)。
 その日は私も何か演奏を、と事前に言われていて準備はしてきていました。実はこの交流ライブの数日前が自分のan弾手ライブ本番だったので、準備と言っても自分のライブで弾いた曲の中から、それも自分自身の語りに加えて、歌詞の朗読を司会の人に当日会場で急きょお願いしていたのでした。
 でも、その語りって、an弾手ライブ「秋から冬へ。遠い記憶の旅」の中のしんみりした物語なのです。その日の交流ライブのワーワーした雰囲気の中では、ほとんど聞こえないし誰も聴いてくれないだろうなぁ。完全に選曲ミス。

 その日はもう一つ頼まれていたことがありました。ある人から「サプライズで愛の讃歌を熊本弁で歌おうと思うので伴奏して!」って。こちらも少し前にお話し頂いていたのですが、やっぱりその前に自分のan弾手ライブがあったので準備は後回し。ファックスで送って来た楽譜のKeyに合わせて自分なりに弾きやすいようなリードシートを準備して来るのがやっとでした。

 最初の構想では、まず語りを入れた自分のピアノソロを静かに演奏し、その後「実は今日、『肥後シャンソニエ』の方がいらっしゃっています。これから歌って頂きますのでお聴きください!」と私がMC入れながら愛の讃歌のイントロを派手目に弾き始める、という段取りだったのですが…。

 何しろ会場が騒々し過ぎる〜! という訳で、ギリギリで私が出した結論は。自分のピアノソロは中止っ! いきなり『肥後シャンソニエ』の紹介をして愛の讃歌に!
 結果は。大正解?だったかな?

 ♪〜
 あ〜たが燃ゆっ手で
 あたしば抱きしめちはいよ
 た〜だ二人だけで
 生きていこごたる〜

 熊本弁の「愛の讃歌」が始まったとたん、会場は爆笑の嵐! それまでガヤガヤしていた客席の視線が一斉にステージに集まったのでした。
 もちろん、視線が集まったのは中央で歌っている『肥後シャンソニエ』の方で、私のピアノ伴奏はほとんど誰も意識して聴いていなかったでしょうけど(笑)
 ただ、伴奏としては誰にも特別に意識されない様に弾くのは逆に難しいことだし、なんとか歌の邪魔をしないで最後まで弾き切れたので自分としては満足。
 最後はちょっと思わせ振りなコード進行でエンディングを引っ張り、歌い終わった『肥後シャンソニエ』が両手を広げてポーズを決め、会場の拍手を浴びるシーンを演出できた?かな?
 貴重な体験をさせて頂いて感謝です。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。
 東京弾手の会の世話役・弾ディさんから、弾手の会・演奏会のお知らせがありました。
 弾手の会とは、このコラムでもこれまで何回もご紹介してきましたが、私an弾手のコラムや本の読者の方を中心にピアノやその他の楽器好きの人達が気軽に集まって楽しく交流をされている会です。今回は2015年締めくくりの会、だそうです。
 ご興味がおありの方は、ご自分で演奏される方も、聴くだけで交流したいという方も、どなたでもお気軽にご参加ください。

日 時: 12月20日(日) 14:00〜17:00(3時間)
場 所: シンフォーニーサロン501号室
東京都江東区深川2−4−8 シンフォニービル
地下鉄東西線・都営大江戸線「門前仲町」下車 徒歩5分
http://www.symphonysalon.com/
参加費: 部屋使用料7,500円(2,500円/h×3時間)を当日参加人数で割った金額
なお飲食各自持ち込み自由
 
お問合せ、また参加ご希望の方は世話役の(弾ディこと)中島さんまでご連絡ください。
  携帯:090-6655-1947
携帯メルアド:piano7thcode@ezweb.ne.jp
 
<>−an 弾手−


第574回 「ストーリーを語る音楽を」 [2015.12.22]
 「歌う時はどんな事を意識しているんですか?」
 ステージの上で、今フラメンコを踊った林田紗綾さんがマイクを持ってカンテ(フラメンコ歌手)のマヌエル・ソトさんに問いかけます。
 「ええ、色々飾ろうとせず、自分の心をそのまま表現しようとするのが大切なんです」
 実際はスペイン語の会話なので、私は聞いていても全く意味が分かりませんでしたが、林田さんが通訳してくれました。

 流浪の民・ジプシーが、迫害の歴史の中で仲間たちとありのままの気持ちを語り合い、歌い合い、そこから踊りが生まれ、やがてあの独特のステップを持ったフラメンコダンスへ。自分の気持ちをそのまま心の底から叫ぶように歌い踊る…、そう言われてみると、あの独特のフラメンコ音楽と踊りが、単なるエンタテインメントとはちょっと違った風に見えてきます。

 その日は、作曲・ピアノの志娥慶香さん、フラメンコバイレの林田紗綾さん、新(にい)箏の藤川いずみさんによるTRINITYコンサート。第1部では、志娥慶香さん作曲の「みずのうた」「凪」「蘇峰」など、自然をテーマにした曲を中心に、第2部では、本場スペインからカンテのマヌエル・ソトさん、フラメンコギターのファニ・デ・ラ・イスラさんもゲスト出演し、藤川さんの新箏も加わった和洋一体の華やかなフラメンコのステージで盛り上がりました。

 第1部の「みずのうた」「凪」「蘇峰」などの曲はこれまで何度も聴いていますが、聴くたびに自然の情景や志娥慶香さんの想いが浮かんできます。そして第2部で聴いたフラメンコに込められたジプシーの民の想い。

 そうだよね、音楽って、この「情景」とか「想い」とか、物語(ストーリー)を描き伝えるものなんだよね、って改めて思います。
 そう言えば、実は私も自分の11年前の最初の本「お父さんのためのピアノ教室」(ドレミ楽譜出版社)や「大人のピアノ入門」(講談社+α文庫)の中に似たようなことを書いていましたっけ。コードやコード奏法の色々な知識の話しとあわせて「そして、映画監督になった気分で」というコーナーです。
 『…心の中のスクリーンはいくらでも膨らませることが出来ます。その見えない映像は、きっと聴く人の心に届くはずです』と。

 この、ストーリーを語り描くということの大切さ。それを改めて再認識したのが、数年前に受講した「スピーチトレーニング講座」と、もう一つの「ストーリーテリング講座」でした。苦手な人前スピーチの何かの足しにでもなれば、位の気持ちで受講したのですが、どちらも違う講師の先生なのに全く同じように徹底的に指導されたのが『自らの実体験をもとにストーリーを語る』ことの大切さでした。これを私はスピーチだけじゃなくて自分のピアノにも応用できたらと思ったのです。

 ひと月ほど前に開いた自分のライブ「Sweet Piano Night」でも、これを試行してみました。「秋から冬へ。遠い記憶の旅」という、自分自身の遠い記憶の中のストーリーで、ライブ全体を(映画監督になったつもりで)一つの物語構成にしてみたのですが、それなりの味は出せたでしょうか。
 そして今回聴きに行ったTRINITYコンサートでの気付き。自分のピアノ(音楽)物語も、自分の言葉で、もっともっと夢のストーリーを広げていければ、と改めて思ったのでした。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。
 わぉ、今日は12月22日、来週火曜日はもう年末休みですね! という訳で、このコラムも今年は今回が最後、次は年明けの1月5日に書かせてください。
 今年も、このコラムを読んで頂き本当にありがとうございました。ほとんどの読者の方とは直接お会いしたこともありませんが、それでもご自身のピアノエピソードをお寄せ頂いたり、コードのご質問を頂いたり、ご自身の著書を送って頂いたり、また今年阿蘇が噴火した時はわざわざご心配のメールを頂いたり、本当にありがとうございました。こうして、この瞬間も世界のどこか私の知らないところで、他にもこのコラムに目を通して頂いている方がたくさんいらっしゃるのかな、と思えるだけでも幸せです。
 来年も懲りずにしこしことコラム書いていこうかと思っています。引き続きお付き合い頂けたら幸いです。
 では、皆さま、どうぞ良いお年を!
 
−an 弾手−

第575回 「新しい空へ」 [2016.1.5]
 小さな漁船が係留されている静かな港。12月とは思えない穏やかな陽が差しています。波に揺れる木製の小さな浮き桟橋。その手前に停まった一台の白いライトバンには日本郵便の赤いマークが。その前に立って、じっと沖の方を見つめている一人の郵便局員さん。
 「島に渡る船がもうすぐ着くんです。着いたら島に届ける郵便を船に積み込むんですよ」。
 私が声を掛けたら、そう話してくれました。

 大晦日のその日、私もその港に立って島に渡る連絡船を待っていました。天草と長崎の間に広がる有明海。その中ほどに浮かぶ周囲約4Kmの小さな島「湯島」。ここはかつて天草・島原の乱の時、天草四郎時貞を救主とするキリシタン信徒達が集まり作戦会議を開いたとされる島で、別名「談合島」とも呼ばれています。

 今回の年末旅行の自分の中でのテーマは「ぶらりローカルの旅」。それも、初めて行く場所で観光客もいそうにない所、ということで前の日に急きょ選んだのがこの湯島でした。

 やがて船が港に入ってきました。島から乗って来た乗客が5〜6人降りると、先ほどの郵便局員さんが郵便の袋を積み込みます。他にクロネコヤマト便の荷物やいくつかの段ボール箱が積み込まれ、岸壁で船を待っていた数人の乗客と一緒に私も乗り込みました。みんな年末で島に帰る人っぽい? この船は島の人達の生活の足になっているようです。

 ……と、何だか新年早々、ピアノとは関係ない話が延々と続いてすみません! 今年初めてのan弾手コラムなのに、まだ新年のご挨拶もしてませんでしたね。
 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします!

 さて、いきなりこんな話から始めたのは、この原稿を書いている今、年末に行った湯島の印象がとても大きかったので。小さな島の港側の斜面にへばり付くように建っている民家と、平らな島の頂上一帯に広がる大根の畑。その途中の急な坂道のあちこちに生えている大きなアコウの木。そして人懐っこく近寄って来るネコ達(この島はネコが多いのでネコ島とも呼ばれています)。行ったのが大晦日だったからかどうか分かりませんが、港の周辺以外にはほとんど人影も見掛けません。

 初めて来たのに何故か懐かしいこの風景。その後、再び船で島を離れて対岸の天草・大矢野に着いたら、いきなり都会? 海の向こうの、さっきまでいた世界が遠い記憶の中のふるさとか、おとぎ話の世界のような気がしてきました。
 「ああ、あんな世界があったんだ」
 「いつも、都会(?)の喧騒の中にいるのが当たり前になっていたけど、まだ身近に自分の知らない別世界があるんだ」
 そんな気持ちが一杯広がってきました。新しい物語の世界? 新しい物語が見えてくるようなピアノの世界?(って、なんか無理やりピアノとくっ付けようとしてるみたいですが:笑)
 去年の最後のコラムでもこんなことを書いていました。
 『そうだよね、音楽って、この「情景」とか「想い」とか、物語(ストーリー)を描き伝えるものなんだよね』と。

 今、街なかに帰ってきて思い出すあの別世界の島の情景。そんな、どこか日常とは違う世界が浮かんでくるような「ピアノ物語」が弾けたらいいなぁ。

 まだ自分が知らない、新しい物語の世界へ。新しい空へ。
 今年はそんな体験がたくさん出来たらいいなぁと思います。

 という訳で、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
 こちらは、今年のan弾手の年賀状です。




(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
 皆さま、どんな新年を迎えられたでしょうか。私はなかなかピアノに触ることが出来ませんでしたが、今回のコラムのように、イメージの中での「エアピアノ」を楽しんでおりました(笑)
 そして、皆さんから届く年賀状も楽しく拝見いたしました。「毎週の更新、欠かさず楽しみにみています」とか「ピアノに癒してもらってます」とか、娘さんが「校内合唱コンクールのピアノ伴奏で優秀賞をもらいました」とか「ピアノが縁で新しい出会いに恵まれました」とか。そんなうれしいお便りに目を通していると、思わず皆さんとの楽しい「エア会話」が始まってしまいそうです。そうそう、某大手出版社の編集ご担当者からは「新しいご本を今年こそ実現できればと思っております」と、年賀状で尻を叩いて頂きました〜。
 さて、今年はどんな楽しい事が待っているのか、ワクワクしながら新年をスタートしたいと思います。
 
−an 弾手−

第576回 「人生のアドリブもまた楽し?」 [2016.1.12]
 『アドリブは「テキトーに演る」ということとは全然違う』

 ボイストレーナー, ボーカルトレーナー、ボーカリスト、マジカルトレーニングラボ(株)代表、大槻水澄(MISUMI)さんのブログにあった言葉です。以下、少し抜き出し引用させて頂きます。

 『…「アドリブ」を「テキトーに歌う」「テキトーに演奏する」くらいの意味に解釈している人が、非常に多い。だから、とりあえずメロディを崩す、でまかせで、テキトーに演奏する、など、なんだかイケてないアドリブになっちゃうわけです。では、「アドリブ」とは、本来、どういう意味でしょう?』
 『…練習やリハではバンバン、テキトーなメロディを演奏したり、ピッチの悪いフレーズを連発したりすればいい。大切なのは、その先です』
 『…何気なく歌ううちにできたフレーズを、きちんと整理して、ピッチもしっかり整えて歌えるようになって、よりリズムやビートのハマリをカッコよく修正して、そうしたフレーズを、いくつも、いくつも、自分の「アドリブBANK」に貯金するのです。先人の名演をコピーするのもひとつの方法です。初心者のうちは、本当の意味での「アドリブ演奏」よりも、そうしたフレーズを覚えて演奏するくらいでちょうどいい。垂れ流し的に、思いつきのフレーズを、テキトーに演奏し続けていたのでは、いつまでたっても精度はあがりません。
 やがて、自分の「アドリブBANK」がイケてるフレーズであふれる頃には、何も考えず、自由自在にアドリブ演奏が楽しめるようになり、さらには、聞く人を感動させられるような、アドリブを披露できるようになるはずです』

 似たような話は、以前から夜の街のライブハウスでのプロピアニストさんとの雑談で聞いたり、何かの本で読んだりしていました。今回また上記のような話を読んで、改めて納得しています。「自分のアドリブBANK、まだまだ残高が心もとないなぁ」と。

 と、ここまで書いて、ふと別のことが頭をよぎりました。「アドリブって、人生でも似たようなことが言えるんじゃない?」

 誰かが書いた楽譜をそのまま上手になぞるだけの人生は面白くなさそうだし、かと言って「テキトーに演奏する→その時の思い付きでテキトーに生きる」というのは、もちろんつまらない。仮に自分で作曲したオリジナル曲(自分で決めた生き方)でも、何回も演奏していくうちには時の経過とともにその時その時の場面、自分の想いに合わせて素敵なアドリブを交えていくのも良さそうですよね。
 自分自身はどうなんだろう。これまで生きてきて、自分の「人生のアドリブBANK」にはどれ位の貯金があるんだろう。

 私事で恐縮ですが、私は社会人になってからこれまで、ざっと3つの仕事(職場)を経験してきました。1つ目は沖電気電子装置研究室でのエンジニア、2つ目は小さなデザイン事務所での見習いデザイナー、3つ目は現在の企画会社の経営。同時に、大人になってからふとピアノにもチョッカイを出し、本の執筆なんかにまで手を出してみたり。何ともコロコロ変わってきたようにも見えますが、自分の中では決して「テキトーに思い付きで」変わってきたつもりはなく、自分が演りたい「オリジナル楽譜」はいつも自分の中にあったような気がします。その過程で自分の中で温めてきた「アドリブBANK」の中からコレと思うフレーズを引き出してきたのかなぁ。

 と、まぁ、アンタのそんな話なんか別に聞きたくもないし〜、と言われそうですが(笑)
 ただ、久し振りに「アドリブBANK」の話しを読んで、そろそろ自分の人生のオリジナル曲のエンディングにはどんなアドリブを入れたら面白いだろう、なんて思ったもので。



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
 昨日は成人の日でしたね。今では自分も自分の家族も「成人の日」とは直接関係のない歳になったので、あまり関心も無くなってしまいましたが。新しく成人を迎えられた皆さま、ご家族の皆さま、おめでとうございます。
 自分が成人の日を迎えた時のことを思い出してみると、ことさらこの日を機会に、という気持ちも無かったような気がします。学生生活が楽しくてやりたいことが一杯で。ただ、社会からも大人と認められることでこれからは本当に自分がやりたいことに挑戦できるよね、という嬉しさはあったような気がします。
 新成人の皆さま、どうか夢を描いて未来に挑戦していってください。
 
−an 弾手−

第577回 「Think Positive」 [2016.1.19]
 講談社の第一事業局企画部から一通の封書が届きました。
 「何だろう? 既刊本の増刷の話しなら編集ご担当者からメールで来るし。印税のお知らせなら経理部からだし…」
 開けてみたら、中にもう一つ小さめの封筒が入っていました。音符がデザインされた可愛らしい封筒です。同封の書類に「先生宛のお便りが届きましたので、ご転送させていただきます」との講談社の方のメッセージが。私の本の読者の方が、講談社御中で私宛のお手紙を送って下さったのでした。

 私の本を読んでいる途中で、ふと高校の頃に読んだ漫画の中のヒロインの光景がよぎりました、という30代の女性の方。
 今年、17年振りにピアノを再開する気持ちが湧いてきました、とありました。ベートーベンの月光を戦場のピアニストのイメージを拝借して弾いていますとのことですので、もともとクラシックピアノをなさっていた方でしょうか。
 『クラシックは美しいですが、鮎川(an弾手)様のように好きな曲、弾きたい曲を弾いていると楽しいと感じます。やはり自分の好きな曲をただひたすら好きなように弾いている時間や、また近所のおばちゃんがLet it beが好きで、って言ってくれたり、そんなのが嬉しくて楽しいです』
 『前にヨーロッパ旅行に行った時に、ホテルにピアノがあって、上を向いて歩こう等、30曲くらい弾いて楽しかった体験も、ヨーロッパ旅行の思い出のひとつです。その時のツアーのおじちゃんおばちゃんも喜んでくれました』
 『確かに、ピアノをやっていないと絶対に出会わない人もいます。みんな、変わっていたりこだわりがあったり…しかしフランクで楽しい人が多いですね』
 『私もピアノ、書、茶道、お仕事、娘たちを育てる、English…いろいろ楽しんでthink positiveでゆきます!』
とありました。

 とても嬉しいです!
 こうして、まだお会いしたこともない方と、気持ちの深い所で繋がっている…。なんてありがたいことでしょう。そしてこうしてご丁寧に手紙をしたためて送って頂いて、本当に感謝です。ありがとうございます。
 趣味のピアノ、最初は自分で何とか弾けるようになるのが嬉しいのですが、やがて「人前ピアノ」、つまり誰か他の人との関わりの中でピアノを弾く楽しさに繋がっていくものですね。そしてそこから生まれる新たな出会いの輪。自分の内面と外の世界、その両方に出会いの可能性を広げてくれるピアノ、素晴らしいです。
 私も引き続き『think positive』の気持ちで楽しんでいきたいと思います。
 ありがとうございました。



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
 今朝起きたら窓の外は真っ白。雪が舞っていました。ここ熊本市も雪の朝です。
 昨日のテレビでは東京の雪で交通機関が混乱しているニュースが出ていました。日本列島が寒波に襲われているようですね。皆さまの所はいかがでしょうか。
 あさって21日は大寒。暦の上で最も寒い時期とのことですが、まさに暦通りの大寒ですね。この寒さはまだしばらく続くそうですので、どうか皆さまお気を付けください。
 
−an 弾手−

第578回 「白い恋人たち」 2016.1.26
 雪がちらつく中、私は車を走らせていました。時々、ボンネットに積もった雪が風にあおられて、ブワァ〜ッとフロントガラスに吹き掛かってきます。車が走る路面に雪は積もっていませんが、黒く濡れているので万一のスリップが怖くて控えめのスピードで。

 やがて着いた所は「飯高山」。新緑の頃、緑盛んな頃、紅葉の頃……、四季折々に美しい自然の雰囲気が楽しめる、自宅からほど近いこんもりした里山。私の好きな所です。でも、これまでここの雪景色は見たことがなかったのです。

 おとといの日曜日、全国的に大寒波襲来だと天気予報が伝えていました。九州の平地でもかなりの積雪だと。その日曜日、起きて窓の外を見たら予報通りの雪景色。寒っ!
 「わぁ、今日はいくつか出掛ける予定もあるけど、この雪じゃ無理かなぁ」
 そう思いながら、とりあえず庭に出てみました。狭い庭がふんわり真っ白でちょっぴり広く感じます。木の葉の上にはこんもりと雪の山。そんな景色を見ていたら、ふと飯高山の事が頭をよぎりました。
 「あそこの雪景色、まだ見たことないなぁ。行ってみるか」
 でも途中の道の状況が分からないし。もし積雪で事故でも起こしたら大変だし。
 ま、行くか行かないか、気分的にはフィフティ―・フィフティ―かなぁ…、と思いながらとりあえず朝食を食べてもう一度庭に出てみたら。何となく足は車の方に向かっていたのでした。

 雪が舞う飯高山。森の中は一面の銀世界でした。木の幹の側面に吹き付けられた雪。枝に残る枯葉の上には、ふんわりと盛られた白い塊。落ち葉が敷き詰められた足元はすっかり白い絨毯です。
 時々、風が吹いてくると木の枝の上に積もった雪がブワーッとあたりに舞います。その光景は、まるで白い恋人たち、そのものでした。
 「そう言えば、昨日も弾いたよね、白い恋人たち」
 去年11月のan弾手ライブ「秋から冬へ。遠い記憶の旅」のプログラムにも入れていたこの曲。他にサルヴァトール・アダモの「雪が降る」や「雪の降る街を」などとともに、寒い最近はなんとなく家でも弾いてみると気分にピッタリくるし。

 雪化粧の森を歩きながら、そんな「雪」にちなんだ曲が頭の中に流れてきました。そう、音楽って音の話しだけじゃなくて、そこから情景が広がったり、物語が始まったり、たくさんのドラマを秘めているんですよね。今、目の前に広がっている巨大なスクリーンに映る映像に、いやが上にも感情をかき立ててくれるような音楽が流れてくる。刻々と変わる3D映像と肌を差す風の冷たさ。雪を踏む自分の足音。いつの間にか映画の主人公になった気分?
 
 その時、雲の切れ目から雪景色の森に差し込んできた一筋の光。雪をまとった木立の枝々が真っ白い絨毯の上に綺麗な影を落としました。フワッと風に揺られた梢の雪が、キラキラと木漏れ日に照らされながら舞い落ちます。

 ……白い恋人たちのメロディーが、雪化粧の森の中に流れていきました。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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 随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
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ちょっと、ひと言。
 上の本文とも被りますが、数十年に一度と言われる今回の寒波。寒いです〜!
 北国の人にとっては、熊本人の「寒い〜」なんて大した事でもないかもですが。ここ熊本市でも日曜日昼間の最高気温が0度、きのう月曜の朝は最低気温が氷点下6.5度だったとか。心配していた水道はちゃんと出ましたが、ガス給湯器のお湯が出なくて焦りました。
 今日もまだ寒いですね。今週末から来週にかけては暖かくなるとの予報ですが、日本にはまだまだ寒い地域がたくさんあると思います。皆さま事故のないようお過ごしください。
 
−an 弾手−

第579回 「休日の午後、雑木林のピアノ散策」 [2016.2.2]
 自宅から住宅地の道を4〜5分も歩くと、広い畑に出ます。一面の大根の葉。その横を抜けてもう少し行くと今度は麦畑。今の時期は数センチに伸びた緑の芽が幾筋もの畝に沿って広がっています。その麦畑の中のあぜ道を辿ると、畑の向こうには冬枯れの雑木林。
 休日の昼下がり。ふと思い立って寒風の中のご近所散策です。

 実はその日、ゆっくり起きて遅めの朝食を食べて、ちょっと部屋の掃除器掛けをして……、と。さて今から何しようかなぁ、と思ったらリビングのグランドピアノが目に入りました。自然の流れで、何となく蓋を開けて……。

 特にあの曲を弾いてみようとか、ちゃんと指の練習をしておこうとか、その日はそんな気分じゃなくて、何となく鍵盤に触ってみます。気分のままに指の動くままに。とりあえずKeyだけ決めて。まずそのKeyのトニック・コードの音をどれか鳴らしたら、あとは流れにまかせてフレーズ(っぽい)音を流していきます。一応そのKeyのコード進行やスケールを意識しながら音をつないでいくと、何となくそれらしい雰囲気のピアノサウンドが指先から流れていきます。この、何となく、という感覚がとても気分いいんです。もちろん、日頃よく弾き慣れている指回しとかフレーズ回しとかが無意識に出てきますが、それらを自然の流れでつないでいくと、自分でも未体験のようなフレーズのつながりが出てきたりして、いつまで弾いていても飽きません。しばらく弾いたらKeyを変えて。するとまたガラッと雰囲気が変わります。

 のんびりした休日の午後。そんな贅沢なひと時。しばらくピアノで遊んだ後は「さて、ちょっとその辺りでも歩いてくるか」と、防寒用のマフラーを巻いて出掛けたのでした。

 畑のあぜ道を辿って行った先の雑木林。その向こうに高速道路が走っているのですが、その下のトンネルを抜けて向こう側に出ると、そこも広〜い畑。更にその向こうにはまた雑木林が広がっています。そしてその雑木林を抜けた先には大学のキャンパス。雑木林の一部は大学の敷地で、自然観察の森になっているらしい。そう広くはないけれど、自然の雰囲気がそのまま残っていて、とても素敵です。
 今の時期、木々の葉はすっかり枯れて、地面には一面の落ち葉。何もないと言えば何もないのですが、そんなシンとした冬枯れの林も、自分が歩いて行くにつれて思い掛けない枝の形や木々の配列が見えてくるなど、周りの情景が刻々と変化していきます。ふと足元を見たら、大きな木の根元にキノコがたくさん顔を出していました。

 そんな林の中を歩きながら、ふと思いました。
 「これって、さっきまで弾いていた気分まかせのピアノと似てるなぁ」と。
 気張らず、肩ひじ張らず、その時の気分で、流れにまかせて。自然に指先から流れてくるピアノサウンド。人の手が入っていない自然のままの雑木林で、特別の目的もなく自然の風情を感じながら歩くひと時。
 自分でも未体験のようなフレーズのつながりが出てきたり、またフッと雰囲気が変わったり。

 のんびりした休日の午後。さっきまでの曇り空が晴れて、木々の梢の上にはいつの間にか青空が。首に巻いたマフラーがちょっと暑くなってきました。



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
   あさって2月4日はもう立春ですね。一週間ちょっと前は、ここ九州の平地でも数十年振りという大寒波で積雪でした。全国ではまだ寒い地域もたくさんあるとは思いますが、いよいよ春の足音も近付いて来ているような気がします。
 私は、実は今週もまだ「新年会」がいくつか入ってまして。今更どこが新年?っていう気もしますが(笑)。まぁ「新春会」と言い換えて、春を愛でると思えばいいのかも。
 春の足音を楽しみたいと思います。
 
−an 弾手−

第580回 「その距離を競うより…」 [2016.2.9]
 2週間前の日曜日、実はある方のライブに行く予定でした。でも、その日はあの大雪。一日中降り積もって、とても夜に出掛ける勇気がなく、失礼してしまいました。そうしたら、その2週間後にもう一度ライブをするという案内があって、先日行ってきました。

 旧い木造の倉庫風建物をリノベーションしたようなそのライブの店。私も時々寄ってみる場所ですが、狭い路地から大正ロマン風の木製のドアを開けて中へ入ると、目の前に2階へ続く狭くて薄暗い木の階段。異空間へ抜けるトンネルをくぐる様に足音をきしませながら上っていくと、天井にレトロな風合いのシャンデリアがほの暗く灯った部屋に出ます。
 「あ、今晩は」
 その日の出演者・古荘由美さんが声を掛けてくれました。

 実は去年の9月にもライブをされていて、私のコラム第564回「満月の夜に、心温まるライブのひと時」に書かせていただいた方。若い頃にはライブハウスで定期的に演奏されていたそうですが、その後結婚・子育てで音楽から遠ざかり、去年は実に21年振りのライブという事でした。今回はその復活ライブの第2弾です。

 ライブが始まりました。アコースティックギターの弾き語り。どこか懐かしい80年代、90年代の香りが漂います。途中、ひとつの演奏が終わってから「NHKの朝ドラ、見てる方いらっしゃいますか?」と聞かれました。私は朝ドラ見ていなくて知らなかったんですが、「朝ドラ、あさが来たの主題歌“365日の紙飛行機”です。AKBですよ」と言われました。
 へぇ、そうなんだ。AKBっていっても、その日の他の演奏曲のフォーク系や中島みゆき等の曲と雰囲気似てるなぁ。
 それに歌詞もなかなかいいですね。

 『人生は紙飛行機 願いを乗せて飛んでいくよ 風の中を力の限り ただ進むだけ
 その距離を競うより どう飛んだか どこを飛んだのか それが一番 大切なんだ
 さあ 心のままに 365日』

 フムフム、どことなく曲の雰囲気といい、この歌詞といい、かつてのフォークやニューミュージック系の香りがするなぁ。それに由美さんは若い頃、あのヤマハポプコン(1969年〜1986年)にも出場したことがあるらしい。スゴッ!
 ということで自分のオリジナル曲もいくつか演奏されました。例えば「ミッドナイト・ハイウェイ」とか、みんな英語のタイトルでしたが、中島みゆきやユーミンなどのイメージが浮かびました。そしてラストは中島みゆきの「時代」。

  『そんな時代もあったねと いつか話せる日がくるわ
 あんな時代もあったねと きっと笑って話せるわ
 だから今日は くよくよしないで
 今日の風に吹かれましょう』

 21年振りにギターを抱えてステージに立った彼女。時代を越えて、若い頃からの音楽に込めた想い歌う、その姿は素敵でした。私も自分が若い頃に聞き馴染んだフォークやニューミュージックの世界が蘇ってきました。

 『その距離を競うより どう飛んだか どこを飛んだのか それが一番 大切なんだ
 さあ 心のままに』

 そんな気持ちで、これからも自分流のピアノの世界、楽しんでいきたいなぁ、と改めて思ったその夜でした。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。
 昨日は仕事の打ち合わせで久し振りに水前寺成趣園(出水神社)に行きました。私にとっては子供の頃から見慣れた風景ですが、いつ見ても綺麗です。この時期、築山の芝生はすっかり枯れて茶色ですが、常緑樹や松の緑、そして何より園内に広がる湧水の池は澄み切っています。人を見ると寄ってくる池の鯉や水鳥、たくさんの鳩。
 冷たい風の中にも青空から差す陽の光が心地良い、庭園散策のひと時でした。
 
−an 弾手−

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