運良く長生きして人生80年、退職後の人生をどう生きるか、今大きく問われている。
 私は39年の教職生活を終え毎日が日曜日のような生活でやりたいことがいっぱいだった。2年間は木工芸、竹工芸、園芸など次々と事欠かない楽しみがあった。しかし、狭心症がひどくなり、ドクターストップがかかり、とうとう心臓のバイパス手術を受け、あまり無理なことができなくなった。主治医の先生からは「10年前ならもう死んでいた。生かされたこれからの人生を人のために有意義に価値ある生き方をして欲しい」と云われた。
 以前から気に懸けていた「蔵」の整理とその使い道はないかと考え、作業場あるいは自分の作品や町の文化祭に出品されたものなどの展示場として生かす事が出来たらと、蔵を生かした県内外の施設を見て回った。どんな活用をしているのか、どんな展示の方法がるのか。喫茶や食堂としての活用が多かった、古民芸品の展示もあったが、なかなか思うようなものが見当たらない。
 家の蔵をどう生かし切れるのか…。 思いあぐねて熊本の世界民族資料館行った。ここは、倉敷から移築した蔵の中にいろいろな工夫がなされて展示してあり、「灯台元暗し」まさにこれだと思った。
 町在住の有名な銅版画家秀島由己男氏からもアドバイス頂き、紹介いただいた熊本の世代会の方々もこられてどんな空間にするか検討しながら'97年3月のオープンにどうにかこぎつける事が出来た。オープンでは海老原喜之助とその弟子達、世代会の仲間達展では新聞、テレビ等でも紹介していただいた。地元の有名な画家の作品、石井了介氏展、浜田知明展、田代順七展、葉祥明展、いわさきちひろ展、手塚治虫賞をとったマンガ家 萩尾望都展、絵本作家展など、常設展と企画展をやってきた。
 その合間、季節ごとにミニコンサート、胡弓や琴の演奏、フルート、落語、講談、ファッションショー、メゾソプラノコンサート、ハープコンサート、大庭照子コンサートなどの企画は見る人、聞く人の心をとらえた。
 県境の辺鄙な片田舎にも豊かな文化の風を吹かせたい。そしてそれが地域興し、町の振興にも役立つならばと思う。県からは「さわやか街角賞」を頂いた。
 ヨーロッパの国々では町ぐるみで古い景観を残した観光地も多い。美術館など一度も行ったことがなかった人が初めて来て「絵はこんなにも心を和ませるものかと初めて思った」とか、「絵もすばらしかったけど、この蔵のたたずまいや昔の木組が又格別にいい」ともらしてくれるお客さんの声に励まされて美術館を続ける意欲が湧いてくる。

ギャラリー蔵 
TEL0968-34-3560
玉名郡三加和町大字太田黒715