インタビュー
 今、輝いている熊本ゆかりの舞台芸術家の素顔に迫ります。
 
写真(松本光紘) イタリアの歌の「心」を日本に伝えたい
声楽家(バリトン)松本光紘
 
 昨年1月の「第34回イタリア声楽コンコルソ」でミラノ大賞を受賞して、イタリア国立音楽院への推薦入学という特典を頂きました。9月からイタリアへ留学して、ボローニャ国立音楽院に通っています。今回は、コンサート出演のために二度目の里帰りです。
 イタリアに行って実感したのは、イタリア語と日本語の響きが全く違うということでした。建物の造りや、空気が乾燥しているせいもあると思うんですが、部屋にいても街の中でも音がよく反響するんです。だから、声の出し方も違ってくる。私自身も、音に対する感覚が変わりました。
 時間の流れ方がゆっくりなのは、熊本と似ています。バスのエンジンの調子が突然悪くなって途中で降ろされたりすることがあるんです。日本では便利でスムーズな生活に慣れすぎて、ハプニングが起きたときのことなど考えて暮らしていませんから、戸惑ってしまいます。でも、イタリアの人たちは何かあったときの対処法がうまいし、むしろそれを楽しんでいるところもあります。今、個人レッスンを受けている先生は、「焦らずに、もっとリラックスしなさい。ほんの少し息を吸って歌えばいいんです」とおっしゃるんです。どっしりとおおらかな土地柄を感じますよ。
 また、イタリアでは、意思をはっきり伝えないとだめです。教室でも積極的に「歌いたい」と言わないと順番が回ってこない。でも、周りはライバルではなく仲間です。マフィアの語源にもなっている「マフィオーゾ」という言葉があるんです。これは、仲間意識という意味ですが、それくらい仲間を大事にしますね。
 オペラというのは、そういう土地の音楽なんです。イタリア人の血や肉になって馴染んでいるんですよ。ですから、教え方にも構えがない。とてもシンプルです。理論やテクニックではなくて「心」が大切なんですね。だから、言葉を大事にする。同じ母音でも、日本語とは微妙な発音の違いがあるので、しっかり言葉も勉強しなくてはなりません。
 いつまでイタリアに留まるかは分かりませんが、生活の中でじっくりとイタリアの心を学んで、日本に伝えたいですね。

プロフィール(松本光紘)
1978年、熊本市生まれ。九州学院高校卒業。武蔵野音楽大学音楽学部声楽科卒業。第15回練馬文化センター新人オーディション声楽部門最優秀賞受賞。第45回熊本県新人演奏会出演。第34回イタリア声楽コンコルソ・ミラノ大賞受賞。第7回若い音楽家たちのコンサートにてグランプリ受賞。第16回宝塚ベガ音楽コンクール声楽部門入選。現在、イタリア国立音楽院に留学中。
 
熊本県立劇場広報誌「ほわいえ」Vol.50より

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