インタビュー
 今、輝いている熊本ゆかりの舞台芸術家の素顔に迫ります。
 
写真(岩代太郎) 映画音楽と新オーケストラ・ブランドの創生を2本柱に
作曲家 岩代太郎
 
 熊本は両親の故郷で、小学生のころは祖父母の家に年に4〜5カ月は帰っていました。だから熊本空港に降りて熊本弁が聞こえてくると、とたんに懐かしくなります。出身は東京ですが、「ふるさとは?」と聞かれると熊本と答えますよ。大人になってから、自分が懐かしいと思える場所や言葉の響きがあるというのは、心の栄養でもあり、とてもぜいたくなことですね。
 父も作曲家ですから、生まれた時から音楽に囲まれていました。でも、小さいころは油絵に夢中だったので、両親は画家になると思っていたのではないでしょうか。音楽の道に進もうと思ったのは、15歳の夏で、ピアノや作曲を本格的に習い始めました。音楽家としては遅いスタートです。油絵は、今でも趣味の一つで描いていますよ。さまざまな色を組み合わせていく制作過程は、作曲で音を重ねていくことに感覚的に似ていると感じます。
 現在、ひと月の半分はNHK大河ドラマ「義経」の作曲を行い、残りの時間は他の仕事をするというペースです。このところ1カ月に1本の割合で映画音楽を書いていますね。今年は映画の仕事が多く、この秋公開の作品だけでも、仲間由紀恵・オダギリジョー主演の「忍 SHINOBI」、市川染五郎・木村佳乃主演の「蝉しぐれ」、妻夫木聡・竹内結子主演の「春の雪」などがあります。偶然ですが、「蝉しぐれ」の黒土三男監督も「春の雪」の行定勲監督も熊本出身ですよね。私も熊本に縁がある、とお話ししたら驚いておられました。
 仕事は、柱を2本決めています。一つは映画音楽です。日本でも昨年公開された韓国映画「殺人の追憶」の音楽を担当し、高い評価をいただいたことで、海外からも映画音楽の依頼が来ています。いずれはハリウッド映画も手がけたいので、アプローチを行っていますが、国内外を問わず、いい作品を創っていきたいですね。もう一つは、東京都交響楽団を母体として新しい音楽性を追求するオーケストラ・ブランドを立ち上げることで、模索しながら進めているところです。

プロフィール(岩代太郎)
1965年、東京生まれ。父は熊本出身の作曲家、岩代浩一氏。91年、東京芸術大学音楽学部大学院修士課程を首席で修了。修了作品「世界の一番遠い土地へ」が、朝日新聞・テレビ朝日主催「シルクロード管弦楽団国際作曲コンクール」で最優秀賞を受賞。同作品は、東京芸術大学資料館に永久保管される。以後、テレビ・映画・舞台など幅広いジャンルで作曲家、プロデューサー、ピアニストとして活躍。現在、NHK大河ドラマ「義経」の音楽を担当。
 
熊本県立劇場広報誌「ほわいえ」Vol.51より

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