平成24年 10月1日  十六夜やたづねし人は水神に(泉鏡花)
 10月2日  芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
 10月3日  秋澄める水にこころを正しけり(鈴木泰子)
 10月4日  影富士の消ゆくさびしさ花芒(臼田亞浪)
 10月5日  野菊やゝ飽きて真紅の花恋へり(杉田久女)
 10月6日  死をひしと唐辛まつかな(種田山頭火)
 10月7日  長き夜の中に我在る思かな(高濱虚子)
 10月8日  万燈の一つが消えて闇あそぶ(橋本多佳子)
 10月9日  威銃ただ一発に目覚めたり(安田花紫香)
 10月10日  朝寒の硯たらひに乾きけり(石橋秀野)
 10月11日  生れて来てこども団栗を拾つてゐる日南(中塚一碧楼)
 10月12日  秋風や眼中のものみな俳句(高濱虚子)
 10月13日  どこか破れどこか新鮮芭蕉林(木庭布左江)
 10月14日  板じきに夕餉の両ひざをそろへる(尾崎放哉)
 10月15日  夕せまるこゝろに椋鳥の群れ渡る(原石鼎)
 10月16日  秋灯の一つ一つにある生活(萱嶋晶子)
 10月17日  稲刈つて飛鳥の道のさびしさよ(日野草城)
 10月18日  やゝ寒やとぼしきまゝの髪油(石橋秀野)
 10月19日  秋高し人ごゑとみに透きとほる(東千秋)
 10月20日  おもひ出て酢作る僧よ秋の風(与謝蕪村)
 10月21日  秋雨や夕餉の箸の手くらがり(永井荷風)
 10月22日  近づきになりて別るる案山子かな(広瀬惟然)
 10月23日  剥製の鵙鳴かなくに昼淋し(夏目漱石)
 10月24日  唐辛子日に日に秋の恐ろしき(正岡子規)
 10月25日  身にしむや亡き妻の櫛を閨に踏む(室生犀星)
 10月26日  此の道や行く人なしに秋の暮(松尾芭蕉)
 10月27日  草花や垣根も無しに台所(渡辺水巴)
 10月28日  輸送船はかなし波止場に塵あくた(栗林一石路)
 10月29日  大空をにつちもさつちも赤蜻蛉(あまの樹懶)
 10月30日  夜寒さや吹けば居すくむ油虫(富田木歩)
 10月31日  啄木鳥のしばらくつつく松の幹(井芹眞一郎)