令和1年 5月1日   遠く来て見しものかリラの花咲くを(横光利一)
  5月2日   亡母への悔舌にくづるる蕗の味噌(今村潤子)
  5月3日   錬兵もけふはおやすみのたんぽぽ(種田山頭火)
  5月4日   引力の匂ひなるべし蓬原(正木ゆう子)
  5月5日   風吹けば来るや隣の鯉幟(高濱虚子)
  5月6日   人行くや夏の夜明の小松原(正岡子規)
  5月7日   牡丹二本浸して満つる桶の水(渡辺水巴)
  5月8日   蛇苺遠く旅ゆくもののあり(富沢赤黄男)
  5月9日   早苗束放る響の谷間かな(松本たかし)
  5月10日   卯の花や妹が垣根のはこべ草(与謝蕪村)
  5月11日   五月川心細く水まさりたる(正岡子規)
  5月12日   後架にも竹の葉降りて薄暑かな(飯田蛇笏)
  5月13日   亡き人に老鶯つねのごと啼いて(井芹眞一郎)
  5月14日   杜若語るも旅のひとつかな(松尾芭蕉)
  5月15日   花栗に寄りしばかりに香にまみる(橋本多佳子)
  5月16日   女夫仲いつしか淡し古茶いるゝ(松本たかし)
  5月17日   お百度の素足音なく闇に透く(今村潤子)
  5月18日   駅路や麦の黒穂の踏まれたる(芝不器男)
  5月19日   寺の門出て苗売に逢へりけり(久保田万太郎)
  5月20日   九輪草四五輪草でしまひけり(小林一茶)
  5月21日   頬白の鳴く音消さるる麦埃(前田普羅)
  5月22日   提灯をつけて来る児や茄子の花(富田木歩)
  5月23日   四十雀のつれ渡りつゝ鳴きにけり(原石鼎)
  5月24日   草の戸に産声あがる柿若葉(東千秋)
  5月25日   車窓暮れ菜殻焼く火の来ては去る(長谷川素逝)
  5月26日   真赤なフランネルのきもので四つの女の児(瀧井孝作)
  5月27日   嵯峨野路や雨に明るき今年竹(あまの樹懶)
  5月28日   道のべによろめきて咲く野蒜かな(村上鬼城)
  5月29日   雨土をしたゝか揚げぬ瓜の花(西山泊雲)
  5月30日   蕗むくやまた襲ひきし歯の痛み(杉田久女)
  5月31日   暁をさへぎるものや桐の花(松瀬青々)