Vol.2 水[2005.2.15]
如月。寒い。でも、やがては“水温む”春。と、強引に今回の○○は、水。というのも、熊本といえば「火の国」「森の都」「水の都」。大阪といえば「商都(天下の台所)」「食都(食いだおれ)」、そして、あまり知られていないかもしれませんが、熊本同様「水都」なのです。

熊本県は環境省選定の「日本名水百選」が全国最多の4カ所(池山水源・菊池渓谷・白川水源・轟水源)。水の景観が美しく、飲み水も美味しい地です。私も学生時代、菊池渓谷へ避暑に出かけ、二日酔いの朝に水道水をグイグイ飲んでいたことを思い出します。今でも熊本の水道水は美味しいとか。大阪は水の都といっても少し事情が違い、そのままでは飲めない典型的な都会の水道水。私の記憶では、大阪暮らしを始めた30年ほど前から、もうすでに飲めなかったのでは。

そんな大阪が、なんで水の都なのか。実は江戸時代、「江戸の八百八町」「京都の八百八寺」と並び「浪華の八百八橋」と呼ばれていて、たくさんの橋と縦横に張り巡らされた水路が、都市としての発展を支えたのです。しかも、それらの橋のほとんどは豪商たちが自腹を切って建設したもの。江戸は幕府が架けた橋が多かったといいますから、お上に頼らず「うちらでやりまひょ」「わいらでやったるでぇ」という大阪商人の心意気を感じさせますね。

でも、飲み水となると確保に苦労する地域が多かったとか。そんな中で、大阪城付近から四天王寺へと伸びる細長い丘陵地、上町台地は美味しい水が潤沢で、四天王寺界隈の現・天王寺区内には「七名水」があったそうです。今はそれらのほとんどが空穴や屋形などの残骸や石碑を残すのみですが、ひとつ四天王寺境内の「亀井の名水」は、同寺「七不思議」のひとつともされる伝説となって語り継がれています。

四天王寺は聖徳太子が創建した日本最初の官寺で、太子の和の精神に則り宗派を超えた「和宗」を名乗るお寺。ここでは、亀井堂というお堂で「経木流し」を行います。戒名などを書いた経木を水盤に流し、先祖の極楽浄土を願うのですが、石でかたどられた大亀の口から注がれる水が亀井の名水。なんでも境内の地下にある「清龍池」から湧き出してここに至っており、なんとその大元は天竺(インド)にある「龍王が棲む池」で、銀の樋で「龍宮城」を経て運ばれているというのです。まこと史実(名水の地)は信仰と出会い、かくも気宇壮大なる伝説が生まれるのです。

また、大阪城に近い地に「越中井」という井戸跡があります。細川忠興公の屋敷跡にあるもので、むろんガラシャ夫人もご愛飲。今でも水が出れば、彼女の美しさにあやかり、“美夫人水”“ガラシャのデリシャスイ”とかの名で商品化され、人気を呼んだかもしれませんね。

ところで、数ある大阪の橋の中に「肥後橋」があります。由来は、江戸時代、近くに肥後藩の蔵屋敷があったことから。肥後橋界隈は大阪でも有数のビジネス街。地下鉄の駅名にもなっています。そう、商都を担う多くの人々が、熊本にゆかりの駅を乗り降りし、ゆかりの橋を往来しているのですよ。なんだかちょっとうれしいお話でしょ(これもごーいん、かな)。


四天王寺の亀井堂。この中で、石の大亀が“天竺”発、“龍宮城”“清龍池”経由の名水を吐き出しています。

肥後橋。橋の両端に地下鉄・肥後橋の出入口。橋の右根元にある大きなビルは朝日新聞大阪本社です。


※大阪の水道水は、2000年、完全に高度浄水処理を達成し改善。
お詫びと訂正をVol.31「再び<水>」で掲載しています。