Vol.35 梅[2008.1.28]
 いつも通る道に、梅がたくさんの蕾をふくらませ開花の時をはかっています。熊本の梅の名所を調べてみると、人吉梅園、水俣市・中尾山自然公園、熊本市・谷尾崎梅林公園、そして熊本城などいくつもありますね。大阪も、万博記念公園などの大きな公園をはじめ、大阪城など名所いろいろ。また大阪天満宮では、関西最大規模の盆梅展「てんま天神梅まつり」が開かれます。天満宮のそばに2006年秋オープンした上方落語の寄席「繁昌亭」、そして、現在放映中のNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」と、落語効果で今年のてんじんさんの梅まつりはきっといっそうの賑わいになるでしょう。

 梅は「百花の魁(さきがけ)」といわれるように、寒気の中すべての花に先がけて咲き誇り、春を告げます。風雅な枝振りの木に清らかな花を無数につけ、馥郁(ふくいく)たる香りを放つその花姿は、桜とは少し違う味わいですが日本人の美学にかない、桜と同じように昔から愛されてきました。原産は中国で、奈良時代以前の初期遣唐使が薬用植物として持ち帰ったとか。万葉集には桜よりも梅の歌が断然多く読まれており、昔、花見といえば梅を愛でることでした。

 水墨画を体現しているような枯れた空気を漂わせる梅。力強く、ゴツゴツと大胆な曲線を描く幹は、無骨な荒武者のようです。いえいえ、その陳(ひ)ねた味わいは、芯の強い不屈の女性、あるいは底意地の悪い老婆のようでもあります。そして、苔むす古木などは、何やら人生を感じさせる味わい深さです。

 ところで、梅の俳句といえば「梅一輪一輪ほどの暖かさ」を思い浮かべる方も多いでしょう。芭蕉の主だった門人とされる蕉門十哲の一人、服部嵐雪の有名な句です。まだ寒い中、気がついたら梅が一輪咲いている。「あ、もうすぐ春なんや!!」。そんな一瞬のときめきを詠っています。が、この句、時として誤って「梅一輪一輪ずつの暖かさ」とされます。となると、一輪また一輪と次々に咲いていく。そのたびに暖かさも増していくようだ。で「あ〜、もう春やな〜」と、なにやら華やぎが加わるもののちょっと平凡な風情の句になります。

「ほど」と「ずつ」。ちょっとした違いですが、皆さんはどう思われますか? 「ほど」とする嵐雪の本来の句は冬の句になり、「ずつ」とする誤用だと春の句になるそうですよ。季節の移ろいに対する日本人の繊細な感性がしのばれます。

●梅の花あそび

そうだ、梅を活けよう。ぷっくらした蕾がいっぱいの梅ときれいなバラと馬酔木(「あしび」とも「あせび」とも呼ぶ)を買った。まずは、バラ1本とともに、シンプルにして風雅に(写真左)。シルバー系のメタリックなモダンな花器には梅もバラを多めに、ベランダの各種ゼラニュームの葉っぱを加え、晴れやかに(中央)。そして、残った梅で、馬酔木の葉っぱと廃材(といっても、お琴用に使った残りだそうで、クラフト材料として販売されていたもの)を添えて、梅林を(写真右)。ということで、やわらかい東風(こち)が、早く吹きますように。