インタビュー
 今、輝いている熊本ゆかりの舞台芸術家の素顔に迫ります。
 
写真(緒方愛子) 日本文化をベースにした日本人の西洋音楽を表現していきたい
ヴァイオリニスト 緒方愛子
 
 現在、北ドイツのフレンスブルクに住んで、地元のシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州立劇場のコンサートマスターを務めています。今回は熊本・福岡でのリサイタルとCD制作のため帰国しました。ヴァイオリンの響きを楽しんでいただきたいと思い無伴奏のリサイタルを開いたのですが、その中で10年来の友人である福岡在住の作曲家、太田哲也さんの書き下ろし作品「無伴奏ヴァイオリンのための詩歌」を初演しました。自然が好きな太田さんらしい、夏の風や山の色が思い浮かぶ曲です。
 プログラムの中心にはバッハの曲を選びました。バッハの曲はもともと教会音楽ですから、教会の長い残響も考慮して作曲されています。そのような曲のイメージを伝えるために、教会を会場にしたのです。教会で弾いていると、(残響で)音が自分のところに戻ってくるので、独りで弾いていても複数で演奏しているときのように音との対話ができるんですよ。 バッハの曲は、300年も前の音楽なのに、内容がとても深く、無駄な音が一つもありません。弾くほどにインスピレーションが湧き、聴くほどに曲の持つ色々な表情が見えてきます。そのせいか、バッハに関しては、何度演奏しても満足したことがありません。永遠のテーマとして探究し続けることになるでしょうね。CDはリサイタルと同じ曲構成で、10月上旬に出る予定です。
 ヴァイオリニストになろうと決心したのは、小学校低学年のころ。漠然とフランス留学を夢見ていましたが、高3の時に参加した鹿児島の霧島音楽祭で、ウィーン国立音大のギュンター・ピヒラー先生のレッスンを受け「この先生しかいない!」と迷わずウィーン留学を決めました。
 日本と西洋の芸術を比べると、日本は平面の美、西洋は陰影や高低がはっきりした美なんですね。私は日本人ですから、日本の美、日本の文化をベースにした日本人の西洋音楽を表現していきたいと思っています。また、ふるさとの熊本の方にも私の演奏を聴いていただきたいので、熊本という場所にこだわった活動も続けていきたいと思っています。

プロフィール(緒方愛子)
熊本市出身。3歳からヴァイオリンを習い始め、桐朋学園女子高校音楽科を卒業後、ウイーン国立音楽大学、ハンス・アイスラー国立音楽大学を経て、ベルリン芸術音楽大学、同大学院を卒業。多くの名ヴァイオリニストに師事し、数々のコンクールで優秀な成績を収めてきた。現在はシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州立劇場のコンサートマスター。国内外でリサイタルを開いて注目され、音楽現代(芸術現代社出版)2月号に「今年ブレイクしそうな音楽家」として紹介された。ドイツ在住。
 
熊本県立劇場広報誌「ほわいえ」Vol.53より

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