インタビュー
 今、輝いている熊本ゆかりの舞台芸術家の素顔に迫ります。
 
写真(木村和夫) 強い精神力で踊るカッコいい父の姿を娘に見せたい
バレエダンサー 木村和夫
 
 小学生の時、バレエを習っていた妹の影響を受けて熊本バレエ研究所に通い始めました。当時、男性は私だけでしたが、踊るのに抵抗はありませんでした。自分に合っていたんでしょうね。中学生のころ、同研究所の公演のゲストとして来熊された東京バレエ団の芸術監督、溝下司朗さんに「本気でやるなら、東京に来ては…」と言われ、高校入学と同時に上京し、彼の元に弟子入りして東京バレエ団に入団しました。とてもきびしい先生でしたが、挨拶やマナー、人への気遣いなど、エトワール(スター・ダンサー)として必要なことを一から教わりました。
 東京バレエ団では、モーリス・ベジャールやジョン・ノイマイヤーなど、世界的な振付家の作品にも出演しています。彼らの振付は、作品として完成されていますから、自分なりの解釈をするのではなく、素直に踊るように心がけています。心を無にして向き合い、彼らの意図を見抜くことが大事だと思うのです。
 クラシック作品の場合は別で、相手とのバランスを考えて強い個性を出すか弱めにするか、自分で解釈をして創り上げていきます。同じ王子役でも、作品によって違うのです。たとえば、外国人が日本の昔話を聞いても、桃太郎と金太郎の違いは分からないと思います。でも、日本人には分かる。それと同じように、「眠れる森の美女」と「白鳥の湖」の王子とは違います。「眠れる…」のデジレ王子の方が気品がある。お茶を飲む時の仕種(しぐさ)まで変わってきます。そこまで深い解釈がないと海外では通用しないんです。
 昨年、娘が生まれてから、彼女がもの心つくころまでは踊っていたいと思うようになりました。肉体には年齢的な限界がありますが、精神力には限界はないと思います。10年以上トップで走り続けるのは大変なことですが、エトワールに必要な強い精神力を持ち続け、いつでも、どこにいても光っている舞踊手でありたいですね。

プロフィール(木村 和夫)
1969年、熊本市生まれ。8歳でバレエを始め、15歳で東京バレエ団に入団。20歳の時ノイマイヤーの新作「月に寄せる七つの俳句」で、振付家自身の指名により主役の座を射止める。キリアン振付「ステッピング・ストーンズ」、ベジャール振付「火の鳥」、「くるみ割り人形」全幕の王子役、ブラスカ振付「タムタム」、「ドン・キホーテ」初演時のバジルとエスパーダ、「白鳥の湖」主演など、明確な技術と気品ある踊りで観客を魅了。「ジゼル」のヒラリオンなど個性的な役にも新境地を開拓。
 
熊本県立劇場広報誌「ほわいえ」Vol.54より

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