第541回 「異業種交流会でセッション?」 [2015.4.7]
  「それじゃ、そろそろやりますか」
 そう言いながら、男性がトロンボーンを取り出しました。
 私は席を立ってピアノの前へ。スポットライトが、トロンボーンの男性とピアノの私に当たります。

 その日は、私が所属している異業種交流会の例会。いつもはホテルの会議室とかパーティールームとかで開かれるんですが、今回は初めてライブハウスを貸し切っての開催になりました。そのきっかけは昨年私が開いたan弾手ライブ「Sweet Piano Night」。3月と7月だったのですが、7月開催の時にこの異業種交流会の会長さんやメンバーの人達が数名来てくれて、
 「そのうち、このライブハウスで例会をやりましょうよ」
 という会長さんの発案で今回のライブ例会が実現したのでした。

 そう広くないこの店ですが、テーブル席がほぼ満席。
 会長挨拶の後、まずは私のピアノソロからスタートです。そう言えば「Sweet Piano Night」の1回目が去年の3月27日だったので、あれからもう1年が経ったんだなぁ。今回も、春にちなんだ曲やMC(弾きしゃべり)を織り交ぜながらワンステージ30分、an弾手ワールド(?)を語ってみましたが……。どうだったでしょうか?

 おっと、今回のコラムのテーマはそこじゃなくてその後のセッション。同じ交流会メンバーに交響楽団の団員でトロンボーンをやる人がいて、以前に「いっしょにやりましょうよ」と言われていたんでした。
 「じゃ少し早目に曲目を決めたり音合わせをしなくちゃですね」と言っていたんですが、その後連絡なし。もうあの話は無しになったかなぁ、と思っていたら…。
 例会の3日前に突然ファックスから楽譜が何枚も流れてくるじゃないですか!
 そして電話で
 「この中から3曲程どうですか?」と。
 「え〜っ、明日からずっと忙しくて楽譜を弾いてみる時間も無いんですけど〜!」と私。
 それにその楽譜、一段のメロディー譜にコードが書いてあって普通のリードシートに見えたんですが、宙にメロディーを追っかけてみたら。どうも変?。よくよく見ると五線の左がト音記号じゃなくてヘ音記号になってる!トロンボーン用の楽譜ってヘ音譜なんだ〜!って初めて知りました。

 結局、例会当日、開会の30分程前に会場で落ち合って、そこで演奏する曲を決めて音合わせをすることに。なるべく簡単に出来そうな曲は……と選んだのは「Only You」、「ラストダンスは私と」、「オールドブラックジョー」。
 「じゃ、この曲は最初ピアノでここをイントロっぽく弾きますから、それからトロンボーンのメロディ入ってもらって、ここまで来たらまたピアノソロで間奏、その後また繰り返してここでエンディング、にしましょうか?」
 みたいな話をしながらちょっと音合わせ。バタバタで3曲確認しているうちにタイムアップ。今日の出席者もだいぶ揃ってきて開会、ってことになったのでした。

 開会の後は、私のピアノソロタイムの30分に続いて別のフルート持参の人がフルートソロを披露。そして…
 「それじゃ、そろそろやりますか」
 そう言いながら、男性がトロンボーンを取り出します。
 私は席を立ってピアノの前へ。スポットライトが、トロンボーンの男性とピアノの私に当たります。
 さっき打ち合わせたばかりの段取りで演奏開始〜
 私は途中、所々コードを飛ばしちゃったりしたところもあったみたいだけど、まあ、バタバタで合わせた割には何とかカッコは付いたでしょうかね?

 その後、食事しながら「楽器が出来るといいですね〜」とか「コードって何ですか?」とかいう会話が飛び交い、私も急遽またピアノの前に座って「即席コード奏法講座」みたいな事をしゃべり始めたりと、ワイワイ賑やかなうちにあっという間の2時間半が過ぎて行ったのでした。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

■Q&Aコーナーのご質問を募集しています。
 随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
piano-roman@kumamoto-bunkanokaze.com

ちょっと、ひと言。

 もう4月になって1週間が過ぎてしまいました。
 3月末から花見で落ち着かない日々が続いてましたが(笑)、もう既にゴールデンウィークの足音も聞こえてきそう? そろそろ新緑の季節なんですね〜。
 会社の昼休みによく足を運ぶ坪井川遊水地の土手は、一面に黄色い菜の花。冬の間よく見かけていた鴨の群れも、そろそろ北への旅立ちです。これから夏が過ぎ秋が来て肌寒くなるまでしばらくのお別れ。また、元気で会おうね。

 
−an 弾手−


第542回 「読者の方からのご質問(7thコード、他)その@」 [2015.4.14]
 読者の方から質問を頂きました。コードに関するご質問です。

  (前略)〜演奏会でan弾手さんの教本から何曲かが演奏され、an弾手さんの参考アレンジをもとに弾かれてきれいな響きが耳に残りました。
 そして演奏会終了後、それらの曲のコード進行と演奏アレンジに目を通してみました。
 そこで、「憧れの洋楽スタンダード」を使い、an弾手さんに質問してみたいなと思いまして、アドバイスお願いします。

 だいぶ以前から、私の本を参考にしながらピアノを楽しんでおられる50代の男性の方です。
 ご質問の内容がかなり多岐に渡っていましたし、拙著「お父さんのためのピアノ曲集〜憧れの洋楽スタンダード」のページや楽譜の特定部分を参照してのご質問でしたので、このコラムでは私の本をお持ちでない方でも分かるように、ポイントだけ要約してご紹介したいと思います。

 (ご質問)
 【セブンスコードについて】
 an弾手さんの教本シリーズは他にも数冊持っていますが、特に「洋楽スタンダード」を見ると、コードネームに7thが付いているにもかかわらず、その小節内に7thの音が見当たらない小節が少し見受けられます。逆に言うと、7thの音が無いのだから、わざわざコードネームに7thを付けなくてもいいのではないか、と思ってもしまいます。
 例えば〜

 はい、確かにそう思われるかもですね。
 同じ本の「演奏のヒント」の中で私は、「B7のコードでセブンスの音=Aはあえて無視して弾いています。ここではあまり厳密に意識しなくても構いません」と書いています。
 セブンス(7th)の音は、3つの音で構成される基本的なコードに短7度の音(セブンスの音)を加えることによってジャジーな大人っぽい響きを出す効果があります。3つの音で構成された基本的なコード(三和音)に対して、セブンスを加えたコード(四和音)はジャズなどの世界では、こちらが基本的なコードとして扱われているようです(セブンスの入っていないコードの事をジャズの世界ではダサイと言う意味?で「イモコード」とも言われる?:笑)。
 ただ、私の本ではピアノ初心者の方がメロディーとコードネームだけのリードシートを見て自分流にアレンジしながらピアノが楽しめるようになる、というのを目標にしていますので、ジャジーな響きより、まずは初心者の方が取っ付きやすく理解しやすい弾き方、というのを優先して書いています。コードネームに付いているセブンスの音を無視して弾いてもちゃんと曲になります。そしてある程度弾き方が分かってきたら、次のステップとして要所要所で自分の好みに合わせてセブンスの音を入れて音の厚みや味わいを出していければ、ということで、コードネームにはセブンスの表記も付けている、という訳です。
 ここぞという所でセブンスの音を入れると俄然おしゃれな雰囲気が出たりします。ただ、メロディーとの兼ね合いや前後の響きの流れの中で、ある部分だけが突然ジャジーになると不自然になる場合もありますので、曲全体の中でのバランスも必要です。色々試してみてください。
 これは、私の本の参考楽譜に限ったことではなく、世の中の沢山のリードシートを弾く時、楽譜に書いてあるセブンスの音を省略して弾いたり、逆にセブンスが書いてない所でセブンスを入れてみる、みたいな事も普通にアリです。

 もうひとつ、メロディーの音とコードの関係についてのご質問もありましたが、長くなりそうですので続きは次回(来週)に書いてみようかと思います。



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
 最近、自宅の電子ピアノの前に小さなカレンダーを置きました。仕事がある平日も、なるべく1日1回はピアノに触るようにしているんですが、夜疲れて帰って来て食事済んでダラーっとテレビでも観てると、なかなかピアノの前に座るのが億劫になる時もあります。
 そんな時の為に、ピアノに触る時はカレンダーの日付のスペースにスタートの時刻を書き込み、終わる時には終わった時刻を書くようにしてみました。すると毎日のピアノタイムの記録が残り、折角連続記録が続いているのに今日で中断したらもったいないなぁ、という気になって、ピアノの前に掛けるモチベーションになるみたいです。
 さて、今夜も記録更新に挑戦しますか(笑)
 
−an 弾手−


第543回 「読者の方からのご質問(7thコード、他)そのA」 [2015.4.21]
 前回、読者の方から頂いた7thコードに関するご質問について書いてみました。ご質問が長かったので途中までのコメントになってしまいましたが、今回はその続きで、メロディーの音とコードの関係についての話です。まずは前回コラムと同じですが頂いたご質問メールの冒頭部分からご紹介します。

  (前略)〜演奏会でan弾手さんの教本から何曲かが演奏され、an弾手さんの参考アレンジをもとに弾かれてきれいな響きが耳に残りました。
 そして演奏会終了後、それらの曲のコード進行と演奏アレンジに目を通してみました。
 そこで、「憧れの洋楽スタンダード」を使い、an弾手さんに質問してみたいなと思いまして、アドバイスお願いします。

 ここから、今回のご質問の内容です。
 (ご質問)
【メロディーとコードの関係について】
1小節の中で複数のコードが変わるパターンがあります。例えば「愛の讃歌」(Key=G)の演奏例楽譜の中で、メロディーが「ド・ド・ラ・ラ・シー・ソ・ソ」(an弾手注:固定ド読み)の部分でコードが「Am・D7・G・C」と1拍毎に変わっています。そして演奏例楽譜の左手は単音の「ラ・レ・ソ・ド」だけです。ここはメロディーから見ればコードは「Am・G」だけで済むような気がするのですが〜

 確かに、メロディーの音だけ見ると「ド」も「ラ」もAmの構成音だし、「シ」も「ソ」もGの構成音ですよね。だったらコードもAmとGでいいんじゃないの?と。
 しかし、コードというのは単に構成音が同じなら同じコードでいい、という訳ではありません。静止した楽譜の状態で、ある部分の音符の音をだけを取り上げて機械的にコードに当てはめるのではなく、曲の流れと前後のコードの変化(コード進行)の中で考える必要があります。
 「Am・D7・G・C」はコード進行としては「II・V7・I・IV」という流れになっています。これを「Am・G」に変えたら、コード進行は「II・I」になりますよね。「Am・D7・G・C」は、コード進行の王道パターン「II・V7・I」(ツゥ・ファイブ・ワン)になっている所に注目してください。メロディーラインは同じでも、響きの流れは全く違います。
 また、「演奏例楽譜の左手は単音の「ラ・レ・ソ・ド」だけです」ということですが、ここは1拍毎にコードが目まぐるしく変わるので、弾きやすいように左手は各コードのルートだけを弾いています。左手でルートの音を入れるだけで、メロディーの「ド・ド・ラ・ラ・シー・ソ・ソ」がちゃんと「Am・D7・G・C」というコード進行の響きに乗るのです。
 同じ構成音(メロディーの音)でも「ルート」の音を何にするか?によって全く違うコードになり、その結果響きも機能も全く変わります。
 この辺の事情については、バックナンバー第56回「アナ鼻ピアノ(その5)ちょっと寄り道」にも事例を書いていますので是非そちらも読んでみてください。参考になると思います。

 貴重なご質問、ありがとうございました!



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ちょっと、ひと言。
 そう言えばちょうど一年前、このコラムの第494回で「穀雨」という話を書いていました。去年の4月20日「穀雨」の日に小雨に煙る南阿蘇野草園に行った話でした。
 で、一昨日の日曜日は4月19日でしたが、今年もまたまた南阿蘇野草園に行ってみました。今にも雨が降りそうな空模様で「穀雨」と呼ぶにふさわしいお天気。
 南阿蘇に広がるのどかな田園風景と、野草園の中のうっそうとした新緑の木々、そして森に響く野鳥の声に癒された一日でした。
 
−an 弾手−


第544回 「成人のピアノ教育に関する研究論文を頂きました!」 [2015.4.28]
 成人のピアノ教育に関する研究論文を頂きました。
 大阪で大人専門のピアノ教室主宰のほか、阿倍野近鉄文化サロンやよみうり文化センター堺のピアノ講師、進学塾非常勤講師をされている三上香子先生です。拙著「2週間速習ピアノ講座」(講談社)を、大阪教育大学の図書館でたまたま目にされたのがきっかけでメールを頂くようになり、ご自身が配信されているメルマガも読ませてもらうようになりました。そんな三上先生が、大阪教育大学の堀薫夫先生と共著で成人のピアノ教育に関する研究論文を書かれたとお聞きし、興味があったので特別に送って頂いたのでした。

  まず表紙を見てビックリ! はい、そのタイトルがこれ。
 「アンドラゴジーの視点から見た成人のピアノ教育における学習指導に関する研究」。

 うわっ、難しそう! アンドラゴジーって何?
 そして中を開いてタジタジ。文字が小さい〜〜〜(笑) いえ、単に小さい文字が見えにくくなっているという、おじさんの個人的な理由なんですが。

 ま、それはそれとして、論文の中身は?
 私が表紙でいきなり挫折しそうになった「アンドラゴジー」という言葉は、読んでみたら何となく分かったような…。ギリシャ語で成人を意味するanerと、指導を意味するagogusが合成された造語で、「成人教育学」という意味らしい。成人のピアノ学習者へのピアノ指導に、成人の特性を活かしたアンドラゴジー論の適用の可能性を検討した研究だそうです。

 ……と、今回のコラム、固い話になりそうだなぁ(笑)
 いえ、それでもあえて今回この話を書いてみようかなと思ったのは、私がこれまでこのコラムや自分の本の中で散々書いてきた「大人のピアノの楽しみ方」、みたいなものと結構共通するところがあって、「そうそう、そうだよね〜」と嬉しくなったからなんです。
 私はもっぱら自分の体験をベースに、実体験としての大人のピアノの楽しみ方を語ってきてますが、この論文ではピアノ指導者の立場から同じことを考察されているんですね。実際に現役のピアノ教師の人達にもアンケートやヒヤリングを行って、成人に対するピアノ指導の在り方を考察されています。

 このコラムではその詳しい内容のご紹介はスペース的にも無理ですが、共感する部分がたくさんありました。そして、世の中のピアノ指導の先生方と成人のピアノ学習者が、同じ方向を向いて取り組めたら、きっと楽しい大人のピアノワールドが広がるだろうなぁ、と妄想した次第です。
 論文を読んだ後で三上先生にお送りした私の感想文の中から、一部を引用してみます。

 アンドラゴジー論のピアノ教育への適用可能性で書かれている
 @学習者の経験の役割
 A学習への動機づけ
 の部分で思った事ですが。
 まず、ここで言われている「経験」ということですが、論文の中で多く触れられている「経験」とは、学習者のこれまでの人生の中での「ピアノの経験」を中心に語られているような感じがしました。私も成人学習者のこれまでの「経験」というのはとても大きな意味があると思っていますが、私がイメージしている「経験」とは「ピアノ経験」よりむしろ「人生経験」の方です。
 過去の経験、現在進行中の生活(今をどう生きるか)、そしてこの先の自分の人生をどう生きたいか、みたいなものが成人のピアノ学習の動機や目的の中に深くかかわっているような気がします。本人がはっきり意識しているかどうかは別にしても。
 それは論文の、A学習への動機づけ、の中で書かれているように、
 「何ゆえに成人が改めてピアノ学習に向き合おうとしているのか、この点への省察が求められているのである。」
 という部分に集約されていて、とても納得した次第です。
 もしかしたら学習者本人もはっきり自覚していなくても、深層心理の奥にはそれがあって、指導者がそれをうまく引き出し共有していくことが大切なんじゃないかな、という気もしました

 すみません、ここだけ読まれても話の全体像が見えないかもですが。
 私は拙著「大人のピアノ入門」(講談社+α文庫)のあとがきで、次のようなことも書いていました。
 『…しかし、大人には大人にしかない大きな「武器」があります。それは、これまで生きてきた「時間」、喜びや悲しみを数多く重ねてきた人生経験。そして、自分の中の「ピアノを弾きたい!」という強い思い。それだけあれば十分です。たとえプロのピアニストにはなれなくても、暮らしの中で折々の心の機微を奏でる、人生のピアニストにはなれるはずです』

 人生のピアニスト……。指導者と学習者が一緒になって、そんな夢のような夢が実現したらいいなあと、夢見ています(笑)



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。
 いよいよ世の中はゴールデンウィーク突入ですね。祭日は関係ないよ、とか、連休が逆に忙しい、という方もいらっしゃると思いますが、皆さまはいかがでしょうか。
 私はとりあえずカレンダー通りの連休です。1泊の家族旅行の予定がありますが、それ以外は多分、家に籠って次の本の企画の詰めをやっていることでしょう。去年の暮れに簡単な企画提案を出していたのに対して、出版社からGOの連絡がありました。少し間が空いてしまったので、またちょっと頭を整理しながら、次の段階に進めてみたいと思います。
 それで、という訳ではありませんが、来週火曜日(5月5日)は、このコラムの更新はお休みさせて頂きます。
 皆さま、いいゴールデンウィークを!
 
−an 弾手−


第545回 「陽が落ちると目覚める、もう一つの世界で…」 [2015.5.12]
 陽が落ちた夜の街。明るい街灯とネオンに照らされた道をサラリーマン風の男性数人が大声で何か話しながら過ぎていきます。その横をカツカツカツと足早にすれ違う着飾った若い女性。これからご出勤でしょうか。
 10年ほど前までに比べたら足を運ぶ頻度もちょっと少なくなった(?)私ですが、夜の街に来ると昼間とはまたガラッと違った、もう一つの世界が広がっています。

 その日向かったのは酔ing(スイング)というライブバー。オープン10周年記念ということでやって来たのでした。私が最初にこの店を知ったのはそれこそ10年程前、当時うちの会社にいた一人の女子社員の話でした。「この前友達と行ったんですけど、各地の焼酎が揃ったいい感じのライブバーでしたよ」と。

 その後しばらく経ってから寄ってみたら、オーナーはまた別の所で店を開いたとのことで奥さんが一人で切り盛りされていました。更にその後オーナーが現在のピアニストに変わり(いわゆる居抜き?)、若い女性の店長になり、そして更にその店長も独立して自分で別の店を出したので現在の女性店長に代わり、と、変遷がありましたが、最初から店名は変わらず、今年10周年になったんだとか。
 「もう10年?」というか「まだ10年?」というか、微妙な感覚ですが、その変遷の中で私もこのお店でたくさん楽しませて頂き、たくさんの出会いがあり、たくさんの思い出が出来ました。これまでan弾手コラムの中でも何回もこの店でのエピソードを書きましたし、去年の3月と7月にan弾手プロデュースピアノライブ「Sweet Piano Night」をさせて頂いたのもこのお店です。

 20時過ぎ、お店はほぼ満席。私は一人だったのでカウンター席に掛けていましたが、店内にはあちこちに知り合いの顔が。「ここ空いてますか?」と隣の席に掛けてきたのはしばらく振りに会う男性。もう20年近く前に私がピアノのコード奏法を習い始めたライブの店でよく会ってた人。その頃からパーカッションやってたなぁ。
 「今もやってます?」と聞いたら
 「ええ。今日は師匠がパーカッション叩くと言うんで呼び出されました(笑)」

 ステージでは1st setの演奏が始まりました。この店のオーナーのジャズピアニストに、ドラム、ベース、そしてパーカッション、サックス、男性ヴォーカル。みんな知ってる人だ…、と思ったらドラムだけは初めて見る顔でした。ビジネススーツ姿だし、お客さん?

 そのドラムの男性、1stが終わると私の席の近くの補助イスに掛けて他のお客さんと話を始めました。聞くとはなしに聞いていると中学時代の話し。
 「いやぁ、生徒数が多くて。学年で800人位いたからね。16組まであって」
 あれ、それって自分の中学時代と同じだなぁ。同世代か?
 で、思わず話に割り込んでしまいました。
 「もしかして○○中学ですか?」
 「そうですよ。あなたも?」
 「何年生まれですか?」
 え〜〜っ、私のひとつ先輩だ。じゃ2年間は同じ中学にいたってこと?
 「実は私、中学の時、放送部にいたんですけど」と言ったら
 「え!?私も放送部でしたよ!」
 ナニナニッ!? 
 「お名前は?」
 あ〜〜〜っ、思い出した! あの時の放送部の先輩だっ!

 っという訳で。中学卒業以来ウン十年(というか半世紀)振りの再会。ドラムは学生時代にやっていて、最近また始めたんだとか。聞くと自宅にバンド練習用の専用防音室までお持ちだと。本格的だ〜。
 「私もピアノを少し〜」と話したら、すっかり意気投合してしまいました。

 陽が落ちると、昼間とは全く別の世界が出現する夜の街。そこでは私も昼間の本業とは全く別の意味で色んな出会いや経験を楽しませてもらってます(夜の店ですっかり顔なじみの人でも、私が昼間何の仕事をしているのか知らない人はたくさんいますし)。
 そんな場所のひとつ、ここ酔ingの10周年記念ライブで、またひとつ半世紀振りの再会がありました。感謝です。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。
 先週のGW、皆さまはいかが過ごされましたか。私は一泊ですが天草まで家族旅行に行ってきました。その帰りに三角(みすみ)という所にある「三角西港」に寄りました。ここは明治時代に造られた石積みの埠頭が残る港で、当時の洋館などがあるノスタルジックな所。an弾手コラムバックナンバーでもここのカフェでピアノを弾かせてもらったエピソードなど書いてます。(第59回「ここで弾くべきか?弾かざるべきか?」 第60回「ハマリ過ぎ?」
 で、帰宅してからニュースを見ていてビックリ! 何とこの三角西港も含めた「明治日本の産業革命遺産」(全国8県)が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関から世界文化遺産登録の勧告を受けたとか。正式決定は7月の世界遺産委員会の審査を待って、とのことらしいですが、楽しみです。
 
−an 弾手−


第546回 「成人のピアノ学習者と指導者の意識のずれに関する  
   調査報告」 [2015.5.19]
 前々回のコラム第544回で、大阪のピアノ講師、三上香子先生から「アンドラゴジーの視点から見た成人のピアノ教育における学習指導に関する研究」という研究論文を頂いた話を書きましたが、今回はその論文執筆の予備調査にあたる「成人のピアノ学習者と指導者の意識のずれに関する調査報告」という三上先生の研究レポートがピティナ(PTNA)に採用され、ホームページに掲載されたという話題です。

 ピティナ(PTNA)とは、音楽教育に携わっておられる方はよくご存じかと思いますが、「一般社団法人全日本ピアノ指導者協会」の略称(英語名The Piano Teachers' National Association of Japan)。
 って、実は私、ちゃんとした音楽教育を受けたこともないので、ピティナって名前はどこかで聞いたことはあっても、それが何のことなのかよく知りませんでした。今回ピティナのホームページを見ましたら
 ●ピアノを中心とする音楽指導者の団体です。
 ●全国に拠点を持ち、年間にのべ8万組がピティナのステージに立ちます。
 ●音楽教育を通じて、社会に貢献しています。
  と書いてありました。

 そして、ピティナではピアノ音楽についての研究論文や研究レポートを募集しているらしく、審査を通ればピティナのホームページで公開される、ということらしいです。
 (ナニ今さら、そんなこととっくに知ってるよ!とおっしゃる方もたくさんいらっしゃるかと思いますが)

 前置きが長くなってしまいました。
 で、今回の本題は、そのピティナの研究レポートに応募された三上先生のレポートが採用、公開された、という話題です〜。
 そしてそして、ここが重要なんですが(笑)、その研究レポートの中に私an弾手(本名・鮎川久雄)の本やan弾手コラムも参考文献として取り上げられ、三上先生の考察コメントも書かれている、という点です〜!

 内容については、私がここでくどくどと書くより、実際のレポート全文を見て頂いた方が早いと思いますので、レポートが掲載されているピティナのサイトのページをリンクしておきます。
 こちらです。

 http://www.piano.or.jp/report/04ess/ronbunreport/2015/05/14_19645.html   

  その中の、第5章「ピアノ指導者の学びの方法と場」の中に、拙著「大人のピアノ入門」(講談社+α文庫)の紹介や、an弾手コラム第500回で三上先生から頂いたメッセージに私がコメントした言葉にも触れて頂いています。
 (コラム第500回の三上先生のメッセージはこちら)

 http://www.kumamoto-bunkanokaze.com/andante/an50_syoukai.html#27

 そして最後の「注・参考文献」の中では、そうそうたる先生方の著書やピアノ教育システム、組織、大学の研修講座などと並んで、私の本やこのコラム「an弾手のピアノ奮戦記」も紹介して頂いていました。恐縮です。

 大人になってからピアノを弾きたいという人はたくさんいますが、なかなか敷居が高い状況があるのも事実かもしれません。そんな問題点を探り出しピアノ指導者の意識の改革や学びの方法を探ろうとされている三上先生の研究成果が、たくさんの大人ピアノ愛好家の応援に繋がっていくことを楽しみにしています。
 (今回の研究レポート掲載の話題なども書かれている三上先生のブログはこちら)

 http://mikanpiano.grupo.jp/blog/900554



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
 そろそろ5月も下旬、ホタルの季節ですね。
 という訳で、先日は自宅から車で15分程の某所へホタル狩りに行ってきました。着いたのは午後7:00位。まだ周りは明るくて他に見に来ているような人影もなく、ホントにここでホタルが出るのかなぁ、とちょっと不安になりましたが。待つこと30分、辺りが暗くなり始めると、水辺の木の葉っぱにフワフワフワ〜っと点滅が。やがて目の前一杯に光の乱舞が広がっていきました。
 気が付くといつの間にか辺りには家族連れやカップルの姿が。暗闇に聞こえる子供たちの嬉しそうな声、せせらぎの音、黒々とした木々のシルエットに点滅する幻想的な光。しばし時を忘れた夜でした。
 
−an 弾手−


第547回 「不思議なエネルギー? とっておきの音楽祭打ち上げ交流会」 [2015.5.26]
 「じゃ、続いての演奏は、おじさんピアノのアンダンテさんにいってみましょうか!」
 会長さんが前でマイクを握ってしゃべってます。
 え!?思わず席から立ち上がって辺りを見回す私。
 『誰のこと〜?』

 実はその日の夕方、仕事中に会長さんから一本のメールが。
 「今日は参加者少ないし演奏も多くないようなのでan弾手さんにも弾いていただきましょうか?」
 その日の夜は、3月に開催したオハイエくまもと・とっておきの音楽祭(実行委員、出演者、学生ボランティア等、合わせて約1,000名の一大イベント)の打ち上げ交流会でした。私も一応、オハイエ音楽隊の音楽指導者(中々行き出してませんが:汗)兼、とっておきの音楽祭の実行委員、兼、今年はガイドブックの編集委員長も、ということでお手伝いさせて頂きました。これまでも実行委員や関係者の交流パーティーで私も何度か弾かせてもらったことがありましたが、その時はいつも事前に打診があってたんです。でも今回は当日まで何の話もないし、演奏する人はたくさんいるので自分の出番はないだろう、と思っていたんですが。

 夜7:00、会場のライブレストランへ。70〜80人位は楽に入る会場はとりあえず半分位埋まってます。どこに掛けようかなぁ、と見回していたら、顔見知りの実行委員の男性が3人、入ってきました。
 「あ、こんばんは。こっちの席に一緒にどうですか?」
 4人とも申し合わせたような黒いビジネススーツに白のカッターシャツ姿で、このテーブルだけ地味〜な一団になっちゃいましたが。

 やがて会場は席が埋まってきて、会長挨拶、乾杯の後、食事が運ばれてしばし歓談。そしていよいよ演奏タイムです。3月の音楽祭に出演して頂いた人達が、次々に素敵な演奏を披露。
 プログラムは進んで行きますが、それでも結局私には幹事さんから何の声掛けもありません。
 『今日はやっぱりan弾手の出番はないんだよね〜』
 と思っていた矢先でした。
 「じゃ、続いての演奏は、おじさんピアノのアンダンテさんにいってみましょうか!」
 何組もの演奏ですっかり盛り上がってる会場に、元気のいい会長の声が響きました。
 『あ、ここで来たか(笑)』

 「タラタラ〜ッとおじさんピアノですけど〜」
 ちらっとマイクで挨拶してからピアノの前に掛けます。
 ほんとにタラタラ〜ッと(笑)、an弾手定番のダニー・ボーイとミスティー。
 弾き終わって席に戻る私に、何組か先にピアノを弾いてくれたオハイエ音楽隊の青年が手を挙げてハイタッチしてくれました。
 「facebookやってます? 今度友達リクエストしますからぁ!」と言いながら。

 私のタラタラピアノの後は、いよいよ本日の大トリの登場です。去年の音楽祭に下通りアーケード街で初めて演奏して黒山の通行人の足を止め、そこにいたテレビ局関係者の目に止まってテレビデビューしてしまったという、ピアノデュオの若者2人「Les Ami Quatre Mains」。イケメンだし、あの有名な「レ・フレール」ばりの超絶華麗な演奏で会場は一気に盛り上がりました。

 みんなボランティアの集まりで、ちゃんとしたシナリオも無く、交流会の当日夕方まで「今日は参加者少ないし演奏も多くないようなので〜」と会長さんが心配していたのに、始まってみたら予定外の多種多様な人たちが集まってきて、色んなパフォーマンスがあって、楽しく盛り上がってしまう。
 オハイエくまもとの不思議なエネルギーを改めて感じたその日でした。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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 随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
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ちょっと、ひと言。
 先週の土曜日、初めて行きました。夏目漱石第三旧居。水前寺公園の裏、熊本洋学校教師館ジェーンズ邸の敷地内です。
 その日は「石蕗(つわぶき)の花」という朗読グループによる夏目漱石作品の朗読会でした。「吾輩は猫である」「猫の墓」「柿」「夢十夜」「草枕」。漱石がここで暮らしたという旧い和室の畳に座って、しばし漱石の世界に遊びました。
 来年の平成28年は漱石来熊120周年、平成29年は漱石生誕150周年だそうで、熊本でもこれから記念事業が色々とあるようです。
 
−an 弾手−


第548回 「睡蓮の池。この道の向こうに……」 [2015.6.2]
 えっ! ナニこれ!?
 木立の間の小さな踏み分け道を抜けた先に広がっていたのは……。
 シンと静まり返ったような池。周りは緑の草で覆われ、波ひとつない池の中央にはこんもりと茂った島。そして水面を埋め尽くすように広がる睡蓮。葉の間から点々と顔を覗かせているピンク色の花。
 周囲を取り巻く土手や木々から一段低くなった湿地帯の一角に広がるこの池は、すぐ近くを国道が走り、店舗や住宅地が広がっているとは思えない、別世界でした。

 ここは会社からほど近い、坪井川遊水地の一角。実は2年近く前にもこのコラムで、会社のお昼休みにここ坪井川遊水地の端を散策する話を書いていました(第454回「白昼夢のタイムトリップと脳内妄想ピアノ」)。
 でもこの遊水地はとても広くて、いつも歩くのは遊水地のほんの一部だけ。まだまだずっと先まで延々と湿原が広がっているのを見て『あの先はどうなっているんだろう?』といつも思っていたのでした。

 で、その日は思い切って(って、大げさ?)、いつも途中までぐるっと回って引き返す遊歩道から、更に先に延びている道の方へ進んでみたのです。やがて、遊歩道から湿原を挟んだ向こうに公園風の広場が見えてきました。公園と言ってもめちゃくちゃ広そう。駐車場、テニスコート4面、野球コート2面、子供の遊具がある広〜いコーナー、さらにサッカー場の様な広いグラウンド。その横を延々と続く湿原の土手の道をさらに進んでみます。すると行く手にこんもりとした森が現れました。その木々の中に向かって雑草の間を延びている小さな道。ちょっとワクワクしてきます。
 木立の間の小さな踏み分け道を抜けた先に広がっていたのは、シンと静まり返ったような池。周りは緑の草で覆われ、波ひとつない池の中央にはこんもりと茂った島。そして水面を埋め尽くすように広がる睡蓮。葉の間から点々と顔を覗かせているピンク色の花。
 
 「わぉ、これってモネの世界?」
 そこにはモネの睡蓮の絵を思わせる世界が広がっていました。
 モネはこんな池の畔に佇んで(キャンバスを立てて?)あの数々の絵を描いたのでしょうか? で、an弾手はこの池の畔に佇んで、どんな脳内妄想ピアノを奏でるのでしょうか(笑)

 その日は、結局会社を出てから戻るまで2時間半も湿原をさまよってました。
 でも、思い切っていつもの道の向こうまで歩いてみて良かったです。
 『この道の向こうにはどんな風景が広がっているんだろう?』
 そんな思いに、今回も風景はしっかり応えてくれました。

 ※睡蓮の池の写真はこちら(→クリック)



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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 随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
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ちょっと、ひと言。
 この前の日曜日は、泰勝寺跡の細川邸でお茶会に参加してきました。細川藩の時代から伝わる邸宅で、普段は一般の立ち入りは出来ない所です。と言っても本格的なお茶の席ではなく、スペシャルオリンピックス日本・熊本支部のチャリティー茶会。邸内の玄関から廊下、待合室までたくさんの人であふれていました。順番を待って座敷に入ると、肥後古流に則った作法の説明付きでお茶を立てて頂きました。
 お茶の後は細川邸や泰勝寺跡の敷地を散策。鬱蒼とした古木に囲まれた池、木漏れ日が差す苔むした庭園を巡りながら、しばし侘び寂びの世界に遊びました。
 
−an 弾手−


第549回 「ヘンゼルとグレーテル。やっぱり音楽の力ってすごい!」 [2015.6.9]
 「ストーリーを理解するだけでなく、場面場面で流れてくる歌やオーケストラの演奏から、そのシーンの感情を心で感じて頂けたら嬉しいです」

 開演前、指揮者からオペラ鑑賞の簡単な解説がありました。その日は《親と子のオペラ鑑賞会》と題して、オペラ『ヘンゼルとグレーテル』の公演が熊本県立劇場であったのでした。
 私は、主催者のラスカーラ・オペラ協会の知り合いの人から案内をもらっていて出掛けて行きました。

 《親と子の〜》というサブタイトルの通り、客席にはたくさんの子どもたちの姿が。冒頭のオペラ鑑賞の解説は、そんな子どもたちにも分かってほしい、という主催者の配慮だったのかも知れませんが、私もその話を聞きながら「なるほど、そうそう」と、あることを思い出していました。
 それは映画や舞台音楽などをいくつも手掛けている音楽家・ピアニスト志娥慶香(しがけいこ)さんの「映画音楽講座」の話し。何回か聞きかじったことがあって。
 今では当たり前のように、映画やTVドラマではそのシーンをイメージさせるようなBGMっぽい音楽がバックに流れてきますよね。観ている方はほとんど音楽を意識しないで映像に入り込んでいますが、無意識のうちにそのシーンの感情を音楽から受け取っている。怖いシーンでは怖そうな音楽、楽しいシーンでは楽しそうな音楽。このような手法を映画音楽の専門用語で「アンダースコア」というそうです。
 もっとも、オペラは映画と違って音楽が主役のように前面に出て、出演者も歌いながらセリフを語っている訳ですが、それでもひょっとしたらオペラと映画、どちらも音楽が果たす役割の共通点みたいなものがあるのかな、と思ってしまいました。

 開演。
 ホール内の照明が暗く落ち、まだ舞台の幕が下がっている状態で、ステージ下のオーケストラボックスで演奏が始まりました。かなり長く、ちょっとした交響曲のひと楽章位?これから始まる物語の世界に、次第に連れて行ってくれるようです。
 幕が上がると、黙々とホウキを組み立てている兄のヘンゼル、編み物を編む妹のグレーテル。貧しい木こり家族の二人の子供が、生計を立てるために売り物を作っています。やがて帰ってきたお母さんから、編み物やホウキがちゃんと出来上がっていないのを怒られる二人。その日の食事にも困り、二人はお母さんから山に行ってイチゴを摘んでくるように言われて山に向かいます。
 向かった山の中で、お腹の減っていた二人は摘んだ沢山のイチゴをその場で食べてしまいます。お母さんに怒られるのを心配した二人は、さらにイチゴを探しながら、もうすっかり陽が落ちて暗くなった森の奥へ……。
 そこに現れる眠りの精、夢の中に舞い降りるたくさんの天使たち、そして朝の目覚めを誘う露の精。目覚めた二人の目の前に現れるお菓子の家とそこに住む怪しい魔女。

 あ、すっかりメルヘンの世界に没入してしまって、『オペラと映画と、音楽が果たす役割の共通点みたいな〜』な〜んて、小難しい理屈なんぞ、忘れてた!
 最後は魔女を退治したヘンゼルとグレーテルが、魔女に捕われていたたくさんの子供たちを救い出して人間の姿に戻し、そこに二人を心配して森に探しに来たお父さんお母さんも一緒になって、舞台は歓喜の大合唱!
 あらま、不覚にも涙が出そうになってしまった。

 気が付くと、そんな物語を彩るようにずっと流れていたオーケストラの生演奏。
 ああ、やっぱり音楽の力はすごい!



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。
 昨日は関東方面も梅雨入りしたとか。ここ九州は先週から一足早く梅雨。昨日今日と雨が降ってます。
 そんな雨の中、昨日はお昼休みに久し振りに坪井川遊水地まで行ってみました。先週のコラムに書いた睡蓮の池じゃなくて、ずっと手前の湿地の端の方だけですが傘を差して歩きました。一週間見ないだけでも、草が伸びる勢いは凄いですね。土手の上まで草が覆って、風景が変わって見えました。
 小さな踏み分け道に茂った草は、雨に濡れて生き生きと嬉しそうでした。
 
−an 弾手−


第550回 「誰かと行くか、それとも一人で行くか」 [2015.6.16]
 「こんばんは」
 「あら、いらっしゃい」
 午後8時前。そろそろ辺りが暗くなってきた夜の街。とあるビルの階段を2階に上がり黒いドアを開くと、店内の入り口近くにいきなり今夜のライブ出演の女性ヴォーカリストとオーナーのピアニストさん。カウンターの中にはいつもの店長。奥のテーブルではもう一人の出演ヴォーカリストさんが数名のお客さんと話をしています。どうも同じ職場の人達らしい。

 その日のヴォーカル二人はどちらもアマチュア。日頃はそれぞれ仕事を持ちながらヴォーカルのレッスンを受けているらしく、年に数回はこんなライブの店で自分たちのライブを開いているんです。私もこれまで何度も聴かせて頂きました。もちろんプロとは世界が違いますが、それぞれの個性あふれるステージで観客を楽しませてくれます。それに、普段は普通の服装で一観客として来店している彼女たちが、自分のライブの時はステージ衣装に着飾って気合い入れてお化粧して、日常とは違う世界を見せてくれるというのは夢があるものです。

 お一人様の私はカウンターへ。するとそこに顔見知りの男性カメラマンが入ってきました。「ここ空いてますか?」と聞きながら隣の席に掛けてきます。その男性もヴォーカルのレッスンを受けていて、何度も聴いたことがあります。
 「近々歌う予定はありますか?」と聞いたら、
 「あ、次は7月の発表会でね。チケットありますよ(笑)」って。
 そういえば少し前にやはりヴォーカルのレッスンを受けているという別の人からも発表会の案内をもらっていたっけ。

 やがて次々にお客さんが入って来て、あまり広くないその店は一杯に。店長が補助イスを出し始めました。出演者の知り合いや職場の人も多そうかな。中に、私も顔見知りの人が何人も。久しぶりに会う人もいて「あら〜、こんばんは」と声を掛けます。

 ライブが始まりました。
 店内の照明が落とされ、前方のグランドピアノにスポットが当たります。この店のオーナーでプロのピアニストのソロからスタートです。しばらくジャズのお洒落なピアノが続いた後、いよいよヴォーカリストが登場。衣装も個性も歌の世界も全く違う二人が次々に繰り広げていくジャズの世界。いつの間にか日常とは違う物語の中に引き込まれていきました。

 そんな時、ふと思うことがあるんです。
 『あ〜誰かを誘って来れば良かったかな? いや、やっぱり一人で来て良かったかな?』と。
 誰かと一緒に来れば、それはそれで楽しいものですが、でもお一人様もそれなりにいいことがありそう、かな?
 私は大体、こういう所に来るのはお一人様が多かったりして(笑)
 まぁ、これは私だけの感覚かもしれませんが、誰かと一緒だと、その時の自分の感覚の半分はその誰かとの世界の中を見ている様な気がするんです。一方、一人だと自分の感覚の全てが外の世界に向いていて、周りの色んな事にすごく敏感になれそうな気がするんですね。
 ピアノの音、ピアニストの動き、ヴォーカリストの声、衣装、表情、照明、そこに繰り広げられる物語、お客さんの動き、話し声、拍手の音、グラスの音……。目に入るもの、耳に聴こえるもの、空気の動き、何にでも敏感になれる気がするんです。
 もちろん、それらを誰かと一緒に共有する喜びというのはあるでしょうが(私だってお一人様じゃないこともありますよ:笑)。それでもお一人様だから気付くことって、あるんじゃないかなぁ。

 暖かい雰囲気の中で盛り上がったその日のライブ。店長さんと「また次のan弾手ライブも企画しないとね〜」なんて言葉を交わして店を出ます。ネオンと照明がまぶしい夜の街は、まだまだ喧騒に溢れていました。



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。
 東京近郊を中心に、ピアノ(楽器)好きの大人の人たちが気軽に交流されている「弾手の会」。また7月に、楽しい交流会をされるようですよ。今回は「森の中のピアノ交流会」ということで、木漏れ日が差す素敵な場所「森のテラス」で開かれるみたいです。
 先日、世話役の弾ディ(中島)さんから、会員宛ての一斉メールが来ていました。私は熊本在住でそう簡単には行けませんが、会員以外の人も初めての人も気軽に参加できますよ。
 少し詳しいことを、来週(6月23日更新)のこのan弾手コラムでご紹介出来ればと思っています。お楽しみに!
 
−an 弾手−
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