第601回 「読者(70歳・男性)の方からのご質問」 [2016.7.19]
 今回は、読者の方からのご質問メールのご紹介です。
 全くの初心者でピアノのグループレッスンを受け始めてから3年経ったという、神奈川県在住の70才の男性の方からです。ネットでたまたま私のこのコラムを目にされ、第52回の「アナタも鼻歌をピアノで歌えるようになる(!)ためのコード奏法超入門講座」略して「アナ鼻ピアノ」(その1)から第350回の「アナ鼻ピアノ」(その40)までをプリントアウトして練習され、さらに2〜3週間前には楽器店で拙著「お父さんのためのピアノ教室・体験的コード奏法超入門」と「目からウロコのピアノ曲集」(an弾手注:3冊ある曲集のどれかは不明ですが)を購入して練習されているそうです。
 ただ、私の本は一般のピアノ教則本と違って指番号が書いてないなど、戸惑うことも多いそうです。それでも、私an弾手が書いている方針を信じて練習を続けてみたいとのことでした(ありがとうございます!)。

 という訳で、いくつか下記の様なご質問を頂きました。

  1.「体験的コード奏法超入門」の37Pにある富士山の楽譜で、4小節目右手の「BD、付点2分音符」と左手3拍目の「B、4分音符」が重なっています。
 重なっているのには何か特別な意味があるのかもしれませんが、推奨する両手の指使いの方法をお教えいただけるでしょうか。

 2. 指使いについてですが、貴殿の教則本には、コードを手の形で掴む事を目的とするためだと思いますが、指番号が一切振ってありません。
 その為に右手のメロディー部分で、時々わからなくなってしまうことがあります。メロディー部分には指番号を追記して練習してもよいのでしょうか。それとも指使いが確定してしまうまで繰り返し練習しなければならないのでしょうか。まずは貴殿の考えていられる方針に従いたいと思っています。

 3. もう一つ、一般的なことについてお教え願います。
 質問1と同じ4小節目ですが、コードがG7となっています。左手パートに「8分音符のF」が入っているからだろうと思いますが、8分音符以下の短いトーンであれば、コードトーン以外でも経過音として入れても構わないという説明を読んだことがあります。リードシートにはG7となっているのでそれに合わせるためなのでしょうか。
 実際、このセブンスコードについてはよく悩みます。ほかの楽曲集でセブンスコードのトーンが入ってない小節にコード名をわざわざセブンスコードと表記しているのがあります。編曲者がセブンストーンをはずしてしまい、コード表記だけが残ったのかなと理解していますが、他に理由が考えられるのでしょうか。


以下、an弾手が返信させて頂いた内容を要約してここに書いてみます。

 1. 37Pの富士山の楽譜の4小節目ですね。
 (私の本をお持ちでないコラム読者の方のために、ここではその部分の楽譜を以下に載せてみます)



 おっしゃる通り、3拍目の右手と左手の音が重なっています。
 この楽譜でのアレンジの考え方は、左手は各コードの音をアルペジオで弾き、右手はメロディーの下に所々でコードの構成音を加える、という流れになっています。
 右手のメロディーの音はレ(D)ですので、その下にコード構成音のシ(B)を入れています。
 左手はコードG7の構成音をアルペジオにして入れています。
 その際に、シ(B)の音がダブりますが、左手アルペジオの流れとしてはシ(B)、及びレ(D)を入れた方が自然です。
 弾き方(指使い)としては多少変則になりますが、小節の頭でメロディーのレと、それに合わせるコード構成音・シの付点2分音符を右手で押さえ、左手のアルペジオがソ、レ、ファ、ソと上がって来てシ、レになる時、右手でシ、レを弾き直す形が自然かと思います。
 その際、ダンパーペダルを踏んだままにしてメロディーの音が切れないようにします。
 この弾き方は、ポピュラーの曲などで右手のメロディーの音が伸びている時、そこに例えば高い音程で装飾的な飾りのフレーズ(フィルイン)を右手で重ねて入れるなどのアレンジはよくあり、そんな場合もダンパーペダルで音を繋ぐ、ということはあります。

 2.指使いですが、本書では特に指番号を指定していません。クラシックのレッスンでは、最初から指番号、指使いを厳しく指導されると思いますが、コード奏法では「楽譜の音符を指に移して弾く」のではなく、それぞれの演奏者がコードとその前後の音の流れから「自分で次に弾く音を考えて弾いていく」という発想ですので、最初から指使いを指定することはありません。
 37P の楽譜は、あくまでも一つの演奏例として音符が書いてあるのであって、常にこの通りに弾きなさいという趣旨ではありません。ご自分でコードを頼りにアレンジを変えることも自由ですし、その中で弾きやすい指使いを工夫されることをお勧めします。

 3. セブンスコードについて
 質問者がおっしゃる様に「短いトーンであればコードトーン以外でも経過音として入れても構わない」というのはその通りですが、この楽譜の例では「経過音」ではなく、重要なコード構成音の一つとしてファ(F)の音を入れています。
 本書28Pのダイアトニックコードの説明にV(5度=ドミナント)のコードは短7度を加えてV7(ドミナント・セブンス)にする、という様なことを書いていますが、37Pに出てくるG7がまさにKey=CにおけるV7です。
 Key=Cのコード進行ではGはG7として扱います。Key=Cでは、仮に楽譜のコード表記がGとなっていても演奏者はG7と認識してファ(F)の音(響き)をどこかに入れて演奏します。また逆にG7の所でも前後の流れやメロディー音との関係で無理に7の音を入れるとどうしても違和感がありそう(自分の感覚にそぐわない?)時は、7=ファ(F)の音を使わずに演奏することもあります。
 臨機応変です。

 言葉で書くと、長々となって分かりにくいかもですが。
 また何か疑問の点などありましたら、何度でもお尋ねください。

 ご質問頂いてありがとうございました!



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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 随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
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ちょっと、ひと言。

 昨日7月18日は海の日でした。そしてその海の日に、九州から東海方面の広い範囲で梅雨明けらしいですね。
 ここしばらく海を見ていませんが、海というとすぐに思い浮かぶのが天草の海です。真っ蒼な天草松島に浮かぶ緑の島々とか、西海岸の水平線を紅く染めて沈む夕日とか。季節は違いますが、昨年の大晦日に小さな連絡船で渡った湯島とか。あるいは以前このコラムにも書きましたが、天草の大矢野島に渡るすぐ手前の三角西港のレトロなカフェレストランで、海を見ながら弾いたピアノの思い出とか。
 そういえば、
 「海を見にいこう」。
 このひと言、捉えようによってはその先に色んな物語が広がってくる様な気がします。
 好きな言葉のひとつです。

 
−an 弾手−

第602回 「これ、私の最初の一歩なんです」 [2016.7.26]
『これ、私の最初の「一歩」なんです』 
……それは、突然届いた一通のメールでした。

 『突然のメールで驚かれたでしょうね。熊大ワンゲルの後輩〇〇(旧姓 △△)です』
 何と、私が大学時代に所属していたワンダーフォーゲル部の後輩の女性からでした。

 要約すると……
 『ワンゲルOBの人の情報からan弾手さんのライブや出版本のことを知り、さっそく2冊の本を買い、an弾手さんの活躍を知りました。今度、母の49日で主人と熊本に帰ります(an弾手注:現在大阪在住らしい)。その時、an弾手さんの本に載っていた「ライブバー」に行ってみたいなと思いました。主人も私も未経験です。
 an弾手さんがラジオ局に電話された「一歩」。私は今、an弾手さんに思い切ってメールしています。私の最初の「一歩」です』
 さっそく、私の行きつけのライブバーをご紹介しました。

 そして、それから3週間後。
 その日は土曜日でしたが、午後に一つ入っていた予定を済ませた後、夜の街に向かいます。ネオンに照らされた飲み屋街。今からご出勤?の綺麗なお姉さん達が行き交う賑やかな通りから、通い慣れたビルの階段を上へ。黒い扉を開けて中に入ると、事前に連絡を入れておいた店長が
 「あ、前の方の席に来られてますよ」
 と教えてくれました。
 ピアノやドラムセットを目の前にしたカブリツキ席に、一組のご夫婦がグラスと突き出しの皿を前に話をされています。私が近付くとすぐに気付いて「あら〜」と手を上げてくれました。
 奥様(私のワンゲル時代の後輩)とは数年前のOB会でも会っていてすぐに分かりました。ご主人とは初対面です。

 彼女、実は子供の頃からピアノを習っていたそうです。
 『私のピアノとの出会いは、子どもの頃2年間バイエルをオルガンで習い、小学校教師だったので音楽の時間簡単な伴奏で弾いていました。退職をして時間ができたので、3年間ぐらいピアノ教室(クラッシック)へ通いましたが孫の世話など忙しくなりやめました。でもピアノを弾くのは好きでした。
 そんな時、an弾手さんの本に出会い、コードの意味を知り、自己流で時々練習をしています』とのこと。

 小学校の先生で、音楽の時間に伴奏をされていたのならかなりのものですね。でも最近私の本でコードの意味を知った、とのことなのでこれまで楽譜の通りに弾かれていたのでしょう。
 音楽話で盛り上がっている間、お隣のご主人はだんまり。
 そんな様子を見て、彼女が
 「この人、普段はよくしゃべるんですよ」と言ったら、ご主人
 「本の著者と目の前で会って感動してます」と。
 いえいえ、普通のオジサンですからぁ〜
 ちょっと話し始めたら、確かにご主人、饒舌でした(笑)。
 普段よく聴かれているというクラシックの話やらジャズの話やら、ご夫婦での山行きの話やら、北海道での山スキーの話やら(ここにはちょっと書けないような裏話?まで)。

 その日のステージは、ピアノ、ベース、ドラムのトリオに私の好きな歌姫・セツエリコさん。手を伸ばせば届きそうな目の前で迫力の演奏が続きました。
 お二人とも
 「いやあ、こんな目の前で迫力満点ですね。こんなお店、初体験なんです。やっぱり生演奏はいいですね!」
と、楽しまれているようでした。

 後日頂いたメールでは
 『先日はありがとうございました。初めてのライブハウス。私たち場違いではないか等心配もしていましたら、年齢的にも雰囲気も落ち着いていたのでまず安心。ライブが始まったら、ボーカル、バンドの演奏も好きでした。目の前で聞けるって素晴らしいですね。また、音楽好きの人たちが集まれる場所があるって素敵ですね。今度はan弾手さんのライブをみたいです。こちら堺でもライブハウスを調べて行ってみようかと主人と話しています』
 そして
 『連れて行ってもらったライブハウスでのジャズ演奏に刺激されて、時間を見つけて、コード演奏の練習を始めました。私のブログにその時の気持ちを載せています。暇なときにのぞいてくださればうれしいです』と。
 そのブログがこちら(2016年7月19日の記事)
 ↓
 http://blogs.yahoo.co.jp/yone14kei23

 「まず一歩、そしてまた一歩」
 小さな一歩の先に、新しい世界が広がっていたりするんですよね。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

 朝、セミの鳴き声に起こされました。庭からワッシワッシワッシと響いています。あまりにも大きな声で続いているので、顔を洗って、食事して、と、何かやっていると一瞬セミの声が鳴っているのを忘れていますが、次の瞬間「あ〜、鳴いている」と気が付きます。慣れって怖いですね。
 さて出かけようと庭に出ると、騒々しい緑の木枝の上に白い夏雲。今日も暑くなりそうです。

 
−an 弾手−

第603回 「週末の夜はこうして更けていった」 [2016.8.3]
 「土用丑の日にちなんで、次の曲はSummertimeをおおくりします」
 女性のヴォーカリストがそんなMCをはさんで、次の曲が始まりました。

 いつものライブバー。その日はこの店のオーナーのジャズピアニストと女性ヴォーカルによるSelected Singers Live。実はその女性ヴォーカリストは、私が20年近く前に、あるライブハウスでコード奏法を習い始めた頃に同じくピアノを習いに来ていた人。いわばピアノレッスン同期生でした。でもいつの間にかピアノをやめてヴォーカルのレッスンを始めたらしい。もちろんプロではなく趣味の世界ですが。その日は久し振りに彼女のライヴでした。
 いそしぎ、Knight and Day、You`d Be So Nice To Come Home……、お馴染のジャズナンバーが続きます。

 1st set開始時にはまだ空席がパラパラあった店内ですが、演奏が始まってからポツポツとお客さんが入り始め、席が埋まっていきます。入ってきたお客さんの気配を感じてそちらを見ると、あ、知ってる人。その次のお客さんも、また知ってる人だ(笑)
 みんな夜の街でしか会うことないけど、趣味で音楽をやってる人達です。

 1st setの後の休憩時間。知っている顔の人達が何人か掛けているテーブルに私も移動しました。するとその中で一人だけ知らない女性が私の顔を見るなり
 「あ、an弾手さん?」
 「ええ、そうですけど…」
 「わぁ、知ってますよ。本出してる人でしょ。ちょっと握手してもらっていいですか!」
 あ、はい、恐縮です〜
 何でも、熊本市現代美術館のサイトを検索していて、私のコラムを見つけたらしい。どうして現美のサイトから私のコラムに繋がったのか、よく分かりませんが。
 そして彼女、
 「私もピアノやってるんですよ。ナンチャッテピアノですが」と。
 「そうですか、私もナンチャッテピアノですよ」と私が言ったら、同じテーブルの別の男性が
 「私もナンチャッテピアノです〜」と。
 いきなり、ナンチャッテピアニストが3人揃ってしまいました(笑)
 そのテーブルには、他に趣味でジャズヴォーカルをやっている男性が1人と女性が2人。
 
 その日のそもそもの目的は、20年近く前のピアノレッスン同期生のSelected Singers Liveだったんですが、店の中はいつしかナンチャッテミュージシャン達の交流空間に。みんな、純粋に音楽を聴きに来るというより、そんな仲間意識で繋がった空気を楽しみに来ているんでしょうかね。

 ……暑い週末の夜は、こうして更けていったのでした。



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ちょっと、ひと言。

 いやあ、暑いです。ここ熊本は連日35度を越しているようですが、全国的にも30度超えの所が多いですね。皆さま、どうか体調管理にはお気を付けください。
 と言いながら、私は最近変な足の痛みや肩の痛みに悩まされ、病院に行って検査しても「どこも異常はありません」と言われるだけで。気は若いつもりですが、体は正直なのかな(笑)。
 自分の体も自然の一部。この8月の暑さも自然の巡り。毎日を自然体で楽しみながらこの夏を乗り切っていけたらと思います。

 
−an 弾手−

第604回 「物語が、違う風景を見せてくれる」 [2016.8.9]
 「そうだったのか〜」
 後で聞いて納得しました。確かにそう言われてみると何となく分かるような気もするなぁ。

 おとといの日曜日。私は阿蘇のミルクロードからやまなみハイウェイに入り、雄大な瀬の本高原の中を車で走っていました。どこまでも続く緑の大草原。モクモクと湧き上がる白い雲と真っ青な空。強い日差しがフロントグラスから差し込んで、クーラーを利かせていても直射日光が肌に当たると暑く、思わずシャツの袖を伸ばしました。
 走りながら、車窓の草原の中に黄色やピンクの花が咲いているのが目に入ります。黄色いのは……、あ、ユウスゲ? 阿蘇の高原に自生するユリのような形をした黄色い花で、その名の通り夕方になると開く花です。その時はお昼頃だったので、まだ花弁は閉じたまま。
 あのピンク色の花は? あ、カワラナデシコ? ピンク色の小さな花が、緑の中に点々と広がっています。

 すると、助手席の彼女がポツリとひと言。
 「ハナノだね〜」
 「え?ハナノって?」
 「うん、花の野原で花野」
 「あ、そういうこと。ま、そのまんまだけど(笑)」
 「秋の季語よ」
 「え? 秋って? まだ8月になったばかりだし。毎日凄い猛暑日が続いてるんだけど」
 「今日、8月7日は立秋だから」

 あ、そうなんだ。もう立秋なんだ。そう聞いたら、何だか目に入る光景が、ちょっとだけ違って見えるような気がしてきました。

 車を停めて、草原の中を歩きます。さすがに直射日光の下はすごく暑いですが、ちょっと木陰に入るとウソのように涼しくなります。爽やかな(というよりヒンヒヤリした)高原の風がサーッと吹き抜けていきます。その瞬間、さっきまで夏の草原を華やかに咲き飾っていたはずの草花が、ちょっとだけ切ない風情に。
 「あ、これが『花野』?」
 目の前に広がる『花野』が、確かに秋の風景に見えてきました。

 突然ですが、ここから無理やりにピアノネタです(笑)
 同じ風景でも、ちょっとしたきっかけで違う風景に観えてくるんですね。そのきっかけ、ここでは例えば「立秋」というキーワード、そして秋の季語である「花野」という表現、そしてそこに吹いてきた爽やかな高原の風。それは視覚的な情報の背景に流れるもうひとつの「物語」と言えるかもしれません。
 ピアノの演奏も同じような部分があるような気がします。純粋に聴覚的な情報の他に、その曲(音)の背景に広がる視覚的な風景や物語。そして、演奏者が演奏を通してその物語を語ろうと意識することよって、聴く人の心の中にもその情景や時の流れが広がっていくのではないでしょうか。

 まだまだ緑濃い草原の中に、秋の阿蘇の風物詩・ヒゴタイの丸〜い花を見つけました。空を見上げると、モクモクと湧く入道雲。そのバックには刷毛で引いたような何本もの筋雲が広がっています。
 いつの間にか私は、夏から秋へ向かう自然の物語の中にいました。



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ちょっと、ひと言。

 あさって8月11日は山の日。そしてそのままお盆休みに突入ですね。今年は例年に増して猛烈な暑さが日本列島を襲っているようですが、皆さま、どうか体調にはお気を付けください。
 職場も家も、クーラー無しには過ごせませんが、クーラーをつけていても昼間は暑いですね。今回のコラムに書いた瀬の本高原を渡る風、本当に涼しかったです。あの別世界の風と緑を思い出しながら、まだまだ続く下界の猛暑を乗り越えていきたいと思います。

 
−an 弾手−

第605回 「読者の方から、『魔法です!』と嬉しいメールが」 [2016.8.16]
 最初にメールが届いたのはひと月ほど前のこと。

 『……ピアノでギターのようなコード奏法が出来たらと思っていたのですが、ネットを通してan弾手さまの楽譜の本に出会い感動し、少しずつ楽しみに弾かせていただいております。ピアノが好きで1日の終わりのほんの数分間、曲が形になっていくのを励みに続けているのですがan弾手さまの楽譜に出会え、ピアノの世界がもっともっと楽しくなりました。本当にありがとうございました。最初は「コード奏法超入門 目からウロコのピアノ速習法」の本を弾いてみたのですが感動でした。
 ……ところで、弾いてみてお願いがあります。本に載っている参考曲の模範演奏の楽譜があれば本当に有り難いのですが。じぶんなりの弾き方でよいとのことですが答えのない問題集のような気分ですみません。ピアノ大好き長野のおばあちゃんです』

 私の本をお持ちでない方には分かりにくいかも知れませんが、私の本では、まずコードの意味やコード奏法での右手、左手の演奏パターンを解説した後、例題曲のリード・シート(メロディーとコード・ネームだけの楽譜)を載せ、その後に演奏例としてピアノ用の2段譜を載せています。更に巻末には参考曲としてリード・シートのみの曲があります。ご質問の方は、その参考曲リード・シートが答えのない問題集のような気分なので、模範演奏例(ピアノ用2段譜)の楽譜はないか、というお問合せだったようです。

 そんな「ピアノ大好き長野のおばあちゃん」さんへ、私はあらかた次のような趣旨のお返事を差し上げました。

 『一般的なピアノ演奏では、弾くべき音を全て書いたピアノ用の楽譜があり、演奏者はその音符の通りに鍵盤を押さえていきます。たとえ暗譜したとしても、おおもとの楽譜の通りに鍵盤を弾いていることには変わりありません
 しかし、コード奏法は全く違います。この通りに弾きなさい、という楽譜はないのです。あるのはメロディー(単音)とコード・ネームだけを書いたリード・シート。演奏者はそれをひとつのヒントにして、自分で伴奏を工夫しながら(ほぼ即興的に)弾いていきます。ですから、10人いれば10通り、100人いれば100通りの弾き方になります。つまり、おっしゃるように「答えのない問題集」とも言えますが、実は「答えが無限にある問題集」でもあるのです』

 それからまた2週間後に頂いたメール。
 『……あれからan弾手さまの書かれた本をもう一度良く読み直し、疑問が解決いたしました。右手のコードの入れ方がすっきり分かったのです』
 『誰もいない海(an弾手注:「コードで弾く想い出のフォークソング」に掲載)、とてもきれいで素敵で最初は演奏例の楽譜を見ながらこのように弾けたらと思ったのですが、でも今は演奏例を見なくても分かります。an弾手さまから、演奏例の2段譜ではなくリード・シートを見てコードを考えながら弾くようにと言われてコードを考えながら弾いていると、いろいろなことが見えてくるような気がします。
 最初は何も考えずに楽譜通りに弾いたのですが、今はコードのおしゃれな使い方に気付いたり感心したり、楽しんでおります。
 試しに、手持ちの他の楽譜も弾いてみましたら弾けました! 魔法です!
 ありがとうございました。1ヵ月前は弾けなかったのに!!』

 メールを読んで、私も本当に嬉しかったです。というのは、まさに私が初めてコード奏法に出会った頃と重なる、同じ体験が書いてあったので。
 『試しに、手持ちの他の楽譜も弾いてみましたら弾けました! 魔法です!』と。

 そうなんです、コード奏法が少し分かってくると、メロディーとコード・ネームだけのリード・シートで、色々な曲が『魔法のように』弾けるのです。そんな自分自身の感動の体験を、「ピアノ大好き長野のおばあちゃん」さんのメールで思い出させて頂きました。
 こちらこそ、ありがとうございます。
 ここから始まる広大なコード奏法の世界を、これからもご一緒に楽しんでいきましょう!



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an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

 皆さま、お盆休みの連休はいかがお過ごしでしたか。私はちょっと天草まで行ってきました。天草松島の島影に沈む綺麗な夕陽を眺めた翌日、まだ行ったことのない龍ヶ岳山頂まで登ってみました。頂上まで車で登れると聞いて行ったのですが、途中の道が狭く、うっそうとした森や高い崖の上を抜けていくのでヒヤヒヤでした。頂上に着いたら「ハート岩」と書いた矢印の案内板が。その矢印の方へ木立の中の踏み分け道を進んでみたら視界が開け、深い切り立った崖の縁にハートの形をした大きな岩がありました。手摺も何もなく、足元は断崖絶壁なので怖くて岩の上には上れませんでしたが。
 遥か眼下に大道港、その向こうに御所浦島、そして碧い海が遠くまでかすんで、水平線の向こうでご先祖様の天空とつながっているように見えました。

 
−an 弾手−

第606回 「ピアノが上手になるって、どういうこと?」 [2016.8.22]
 ちょっと大げさなタイトルになってしまいましたが。ネットを見ていて、なるほど〜と思う話がありましたのでご紹介します。
 吹奏楽部の顧問をされているというトランペット吹きオノレイさんという方の「とあるラッパ吹きのつぶやき」というタイトルのブログです。吹奏楽についてのお話ですが、読みながらつい自分の中でピアノに置き換えて考えてしまいました。

 以下、そのブログからの一部引用です。
 『どうしたら「上手くなった」という達成感を得ることができるのでしょうか。
 これも人それぞれだとは思いますが、中高生と話していて感じる「上手い人」の特徴としては、

 高い音が出せる
 指が速く回る
 良い音色が出せる
 タンギングを速くできる

 など、つい技術的なことだけに目がいきがちなような気もします。
 確かに、技術的に優れていることは素敵なことです。どんなに頭の中に「奏でたい音楽」があったとしても、それを実現するための技術を持ち合わせていなかったとしたら、表現することはできません。しかし、技術をマスターすることだけが目的になってしまい、技量の競争のようになってしまっても、音楽というよりは「職人芸」のようになってしまう気もしますし、練習をする上でも、「これができないからダメだ」とダメ出し練習に陥り、息苦しくなってしまうこともあるように思います』

 これをピアノのコード奏法に置き換えてみると、
 ・コードの意味が分かる
 ・素早くコードがつかめる
 ・コード進行の応用が利く
 ・指がよく動く
 ・鍵盤のタッチで強弱のコントロールがうまくできる
 等々……?

 確かにそれらの技術(知識)は必要ですが、それはあくまでも「手段」なんですよね。自分の中に「奏でたい音楽」があって、それを表現するためにコードを使ったり指を動かしたりするのであり、テクニックを駆使すること、そのものが目的ではないはず。
 「いやいや、自分はまだピアノ始めたばっかりだし、コードの意味よく分かってないし」と言う人もいるでしょうが、でも考えてみると、プロを目指す人は別として、大人になってから楽しみでピアノを触り始めた人の多くは「自分の好きな曲を一曲でもサラッと好きなように弾けたらいいなぁ」とか「生活の中にピアノがあったらいいなぁ」とか「夜の飲み屋でオシャレなピアノの一曲でも弾けたらかっこいいだろうなぁ」とか、思っているのではないでしょうか。まさに私自身がそうだったように(笑)

 たとえゆっくりでも、コード進行は単純でも、自分のイメージの中に奏でたい音楽があり語りたい物語があり、それを伝えようとする演奏のほうが、テクニックだけが目立つ演奏より、聴く人の心に届くものがあるような気がします。

 『「上手くなる」ということ。それは結局、「奏でたい音楽に近づけるか」ということのような気がします』(そのブログの小見出しから)

 と、ここまで書いて、実はもう一つ、別の方のブログで似たような音楽表現に関する興味深い記事がありましたので、次回来週はそちらもご紹介させて頂きます。

 今回参照させて頂いたブログはこちら。
 「とあるラッパ吹きのつぶやき」
 http://rapparapa.at.webry.info/201607/article_5.html



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ちょっと、ひと言。

 熊本は毎日35度を超す猛暑日。皆様の所はいかがですか。
 この前の日曜日、うだるような暑さの中、ちょっと庭に出てみたら。庭の小さな柿の木の枝に、青い柿の実がいくつか付いていました。見上げていると、枝からバサバサッと羽音を立てて一匹のセミが飛んで行きました。そういえばつい最近まで朝からセミの大合唱だったのに、もう全く聞こえません。庭の向こうには青々と広がる大豆畑。
 熱い毎日ですが、秋の足音は確実に近づいているようです。

 
−an 弾手−

第607回 「音楽表現の決め手は形容詞ではなく動詞?」 [2016.8.30]
 前回の第606回「ピアノが上手になるって、どういうこと?」に続き、今回もある方のブログの記事を見て「なるほど〜」と思ったので引用、ご紹介させて頂きます。

 『楽譜に書き込まれた、楽語や表情記号。それを見たときに、どんな物語や登場人物がいるのか、どんな自然の風景なのか、どんな絵の具の色合いなのかという想像をすることは、演奏表現のアイディアとして有効です。
 でも、そうやって想像したアイディアをあと少し掘り下げて、その感情が生まれるための動きを作り、その「動詞」を使って具体的に音を出すことに繋げ、その「動詞」を使って演奏する。それが、結果としてその楽語の表情や表現を生み出す…』

 (an弾手)
 今回は、クラリネット専門アレクサンダー・テクニーク教師、フリークラリネット奏者、宮前和美さんのブログ≪クラリネット人生に、アレクサンダー・テクニークを≫
http://kazumimiyamae.net/archives/2426#more-2426
 からの引用ご紹介です。
 クラリネットに限らず、ピアノはもちろん広く音楽表現全般にとても参考になると思いました。
 その中で、宮前和美さんがアレクサンダー・テクニーク教師で女優のキャシー・マデン先生のレッスンを受けて学ばれたことを書かれています(アレクサンダー・テクニークって何?という説明はここでは省略しますが、ネットで検索すると色々情報が出てきますよ)
 私達が、例えばピアノで何かの曲を感情豊かに表現しようと思った時、まずは楽譜に書かれた音楽用語や形容詞を理解してその感情を表現しようとしますよね。

 『音楽家は、「形容詞」で音楽を表現しようとしている。
 brillante ブリランテ     華やかに
 cantabile カンタービレ   歌うように
 dolce ドルチェ        柔和に、優しく
 marcato マルカート      はっきりと
 scherzando スケルツァンド  おどけて
 あるいは、
 優しい音色、荘厳な響き、華やかなサウンド、寂しげなピアニッシモ、等々…。

 それらの言葉はほとんどが形容詞や形容動詞です。
 でもキャシー先生によると、「形容詞」と「感情」は何かの結果起こるもの。例えば「悲しい」という想いは、それが先にあるのではなく、必ず何らかのストーリーがあり、悲しさが生まれたり、悲しみを感じたりするに至っています。
 悲しみを生み出す「動詞」なくして、もしくはそれを考えずして、セリフや「音楽」は生きてこない』

  (an弾手)
 なるほど〜。確かに「この曲のこの部分はもっと楽しそうに」とか「もっと悲しげに」とか言いますよね。でも、どうしてそんな感情が浮かぶのか、その背景を考えることが大切なんですね。

 【悲しい】
 心が締め付けられるように悲しいと思ってその一音を奏でる。
 ↓
 (どうして悲しいのか?)
 金木犀が大好きだった母の面影を思い出し涙が溢れてしまう、その金木犀の匂いをブレスで嗅ぎ、一音を奏でる。

 【明るい、楽しい】
 楽しい明るい恋の歌詞だと思いながら歌う。
 ↓
 (どんな風に楽しいの?)
 15歳の少女に向かって、恋愛の先輩として恋の経験を語ると思い歌う。

 【強い、華やか】
 強い華やかなファンファーレを吹く。
 ↓
 (どんな場面なのか?)
 聴いている人たちに音で敬礼してまわると思い吹く。

 『演奏者も含め、俳優、ナレーター、ミュージカル役者、ダンサーなどの表現者のレッスンで、キャシーはそのパフォーマンスをより生かすときに、ストーリーの中から「動詞」作り出し、それを使うように提案し、見違えるような音や動きを引き出していきました』

 (an弾手)
 最近、私が自分のライブでも大きなテーマにしている「ストーリーを語る」というのに似たような言葉が出て来て嬉しかったです(笑)。でも、ここではさらにその先に、そのストーリーから「動詞」を作り出し、それを使うことで結果的に感情表現に繋がる、という発想が目からウロコでした。
 ピアノを弾く時も、自分が役者になったつもりでストーリーの中の動作を(頭の中で)演じることで、音にもその感情が乗り移る、ということでしょうか。
 少し試行錯誤してみたいと思います。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

 週末から昨日まで京都に行ってました。昨日の午後、用件が終わってから、折角京都に来たのだからどこか京都らしい所にでも寄ってみようかなぁ、と思ったんですが、あいにくの雨。それ程時間の余裕もなかったので、ある人から教えてもらった「京都鉄道博物館」に行ってみました。3階建の広〜い館内には国産初の蒸気機関車の現物や国鉄時代の懐かしい車両等から最新技術の紹介、様々な体験コーナーなど盛りだくさん。夏休み最後の家族連れで大賑わいでした。私は特に鉄道マニアという訳ではありませんが、それでも楽しかったです。

 
−an 弾手−

第608回 「Star Dust。星空は無限大」 [2016.9.6]
 Star Dust(スター・ダスト)。演奏が始まったらゾクッと来ました。

 その日、満員のライブハウスで演奏していたのはピアノの中田由美さんとヴォーカルの西村知恵さん。中田由美さんはこれまでこのコラムでも何度も書いたことがある素敵なジャズピアニストですが、ヴォーカルの西村知恵さんはその日初めて聴きました。ややハスキーなジャズヴォイスにすごい音域とダイナミックレンジ! ノリノリのMCから演奏が始まると、一気に別世界へ引き込まれてしまいました。

 実はStar Dustといえば、私も去年11月のan弾手ライブ Sweet Piano Night「秋から冬へ。遠い記憶の旅」で演奏した曲。私の場合はピアノソロですが。その後もちょっとした人前演奏などの機会に、最近よく弾いている曲なんです。なので、どんな雰囲気の演奏なのかなぁと意識して聴いていたのですが、そのあまりの素晴らしさにゾクゾクしてしまったのでした。自分が弾いているStar Dustと全く別物じゃん!

 もちろん、私の場合はピアノソロで、こちらはヴォーカル・ピアノDuoという違いはありますが、それにしてもすごい。文字通り、心の底から語るように、湧き出してくるように歌う知恵さん、そしてそのヴォーカルをキラキラときらめく星屑のように支える由美さんのピアノ。
 しばらくは我を忘れて聴き入っていましたが、やがて欲が出てくるものですね、これ、何か自分のピアノに盗めるところはないものかと。でもプロの演奏とシロウトおじさんのピアノでは次元が違うしね。具体的なフレーズやコード、アドリブ感満載の間奏などはマネ出来そうもないし。

 でも、何か学ぶものがあるとしたら、そう、この雰囲気? ニュアンス?
 これまで自分が何度も弾きながら、この曲はこんな感じ、と、いつの間にか無意識に思い込んでいたものが大きく壊れていくこの感覚。同じ曲でも全く新しい世界がまだまだ沢山あるんだ、というのが実感として伝わってきました。

 そのライブの帰り、会場の出口で知恵さんがご自身の新しいアルバムCDを来場者全員に1枚ずつプレゼントしてくれました。そこにはその日のライブで演奏された曲がズラッと入っています。もちろんStar Dustも。
 後で聴いてみたら、その時のライブの感動が蘇ってきました。日頃自分が弾き慣れた曲でも、全く違うアプローチや表現の世界がたくさんあるんだ、と、分かり切った事ではありますが、改めて実感として教えてもらった気がしました。

 さて、これからan弾手流Star Dustにどう向き合い、どんな世界を広げていけるのか、楽しみになってきました。
 そう、星空は無限大だから。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

■Q&Aコーナーのご質問を募集しています。
 随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
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ちょっと、ひと言。

 九州直撃か? と思われた台風12号は微妙にそれて、ここ熊本は青空に真っ白い筋を引いたような秋空が広がっています。台風10号の被害に遭われた東北から北海道の方はまだまだ大変な様ですね。心よりお見舞い申し上げます。
 なんだか信じられないですが、あっという間にもう9月。昨日は会社に2017年用のカレンダーのカタログが届きました。思わず年末のあわただしい空気感を思い出してしまいましたが。
 いよいよ芸術の秋本番。しばし芸術文化の世界を楽しみたいと思います。

 
−an 弾手−

第609回 「新しい出会いを求めて。電子ピアノ購入大作戦」 [2016.9.13]
 「あれ? 音が出ない」
 自宅のグランドピアノの横に置いている電子ピアノ(ヤマハ Clavinova CVP-8)。いつものように電源ボタンを押して鍵盤を弾いたのに、シーン。見たら、電源オンで点灯するはずの赤いランプが点いていない。
 「あれ? コンセントが抜けてるのかな」
 足元のコンセントを見たら、ちゃんとささってるし。
 「あれ? 壁の電源そのものが不調なのかな」
 ふた口コンセントのもう一つにささっている別のライトを点けてみたら、ちゃんと点くし。
 試しに電子ピアノのボリュームを一杯に上げてみたら、サーッというかすかな雑音が。スピーカーまで何らかの電気信号は来てるみたい。でも、やっぱり鍵盤押しても反応なし。

 この電子ピアノ、娘が小学生でピアノのレッスンを始めた時に買ったもの。もうかれこれ30年近く前? 当時でも数十万円と、結構高かったような。やがて私が娘の楽譜で「恐怖の楽譜丸暗記奏法」に挑戦し、その後コード奏法にハマってずっと弾き続けてきたのもこのピアノ(いつの間にか、娘用からお父さん専用に:笑)。今でもライブ前の確認練習、自著に載せている曲のアレンジや楽譜起こしなど、グランドピアノの音が出せる休日昼間以外はヘッドホンで全面的にお世話になっている電子ピアノなんです。

 楽器店に電話して状況を説明し、修理出来るか聞いてみたんですが、もう製造していない機種で部品もないし、自宅まで見に来てもらっても出張費がかかるだけで修理できる可能性は少なそう。
 という訳で、結局買い換えることにしました〜。長い間お疲れさまでした。娘が小学生の時から今のan弾手の時代まで、たくさんの思い出が詰まったピアノです。お別れするのは寂しいですけどね。

 さて、買い換えるとなると、どのメーカーのどの機種がいいの? 鍵盤タッチが生ピアノに近いのは前提として、私が機種選びで一番のポイントにしたいのはヘッドホンを付けて弾いた時の聴こえ方。音を出せる時はグランドピアノを弾けばいいので、私にとって自宅での電子ピアノはヘッドホンでの使用がほぼ100%なんです。
 これまで使っていた電子ピアノは、ヘッドホン使用時に「ステレオシンフォニック」という設定が出来て、これをONにするとヘッドホンからの音が耳元ではなくごく自然に部屋の空間から聴こえてくるので、長時間弾いていても耳の負担が無いのです。

 とりあえずいくつかの楽器店に行ってカタログをもらったり展示品を試弾してみたのですが。店頭に並んでいるのは数機種に限られているし、細かい設定を店員さんに聞いてもイマイチはっきりしないし。メーカー毎に全機種が揃っていて全て試弾出来るショールームがあるといいんですけどね。

 しばらくは新しい相方との出会いを求めて、さすらいの旅(?)が続きそうです。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

 自宅隣の畑。今、一面に緑の葉が広がっています。大豆です。
 ひと月半ほど前には土の中から小さな芽がポツポツと頭を出していただけだったのに、あっという間に大きく茂ってきました。
 近くからよく見てみたら、葉の陰に小さなピンク色の花が咲いています。着々と実りの準備が進んでいるんですね。
 そろそろ9月も半ば。風もちょっとだけ涼しくなってきました。

 
−an 弾手−

第610回 「3種類のプロ、3種類のアマチュア」その@ [2016.9.20]
 NPO法人・くまもと文化振興会が発行している「季刊・総合文化誌KUMAMOTO」から、「プロとアマチュア」というテーマで原稿の依頼を頂き、3月号(No.14)に掲載されました。今回はその記事のご紹介をしてみようと思います。
 ちょっと長いので今週と来週の2回に分けてご紹介します。今週はまずプロ(私の本業)に関わる内容なのでピアノとは直接関係なくてすみませんが、後半(来週)は私の大人ピアノについての考察になります。一見、全く違う内容の様に思えるかも知れませんが、どちらも根底には相通じるところがある様な気もしていますので、今週、来週と続けて読んで頂けたら幸いです。

 「プロには3種類ある。アマチュアにも3種類ある」そう私は思っています。
 以下、自分自身の体験から思う、プロとアマについての個人的な考察です。

 ●【まず「プロ」について】
 私は現在、デザイン・企画会社を経営しています。一応デザイン関連業を生業として飯食っていますので、その意味ではデザインのプロ、と言えるでしょうか。
 この仕事を始めたきっかけは、熊本大学の工学部電子工学科を出て上京し沖電気に入社して電子回路のエンジニアとして働き始めた頃のことです。田舎者の私には東京の街に溢れる広告やデザインが眩しく輝いて見えました。当時は魚住勉、糸井重里などのコピーライター、浅井慎平などのカメラマン、中村誠などのデザイナーが脚光を浴びていました。実は私も、学生時代からデザインに興味があり、大学の時はレタリングの通信教育を受けたりしていたのです。
 そんな思いが募って、上京後は沖電気に勤務しながら週末はデザイン学校に通うことに。そこを卒業後、周囲の猛反対を押し切って沖電気を辞め、東京の小さなデザイン事務所にもぐりこみました。そこでは「自分の感性が活かせる『デザイン』の世界で仕事ができる」ことが夢のようで、沖電気に比べたら給料も福利厚生も全く貧弱、もちろん残業手当など無しで毎日深夜まで働く(今で言えばブラック企業?)生活も、何の苦にもなりませんでした。
 しかし、やがて仕事に慣れるに従い疑問が湧いてくるようになりました。勤務条件ではなく仕事の内容です。そのデザイン事務所は東京の大手スーパーチェーンの仕事を請けていました。広告、カタログ、チラシ、POP、店舗ディスプレイなど様々な注文をこなしていましたが、それまで夢見ていた「自分の感性が活かせる『デザイン』の世界」と言うにはギャップが大きいことを意識し始めたのです。仕事で優先されるのは「自分の感性」ではなく「依頼主の注文」です。売り出しのチラシは日替わり目玉商品をいかに目立たせるか、売場のPOPはいかに親しげに目立つ文字でセールスポイントを訴えるか。綺麗な配色より、どちらかと言うと強く目立つ色が好まれます。
 「なんか違うなぁ。自分はこんな注文をこなすためにデザイナーの道を選んだんだろうか」
 そんな悩みでした。

 ●【さて、ここで問題です(笑)。こういう場合、プロのデザイナーはどういう風に考えるでしょうか?】
 その@ 「これは報酬をもらう仕事だからしょうがない。自分の感性の発露は、別途自分の作品創り活動の中で発揮しよう」と考えて、仕事とは別に展覧会に出展したり、個展を開いたり、あるいは「スーパーの仕事がそもそもダサいんだ。もっと自分の感性がそのまま表現できそうな仕事先を別に探そう」と考えるのが「プロのデザイナー」でしょうか?
 そのA それとも、そんな我がままは言わず、ちゃんとクライアントの希望に添ったデザインを黙々と制作するのが「プロのデザイナー」でしょうか?
 そのB そんな悩みの中で、やがて私が選んだのはそのどちらでもなく、第3の考え方でした。
 「自分自身の感性を表現する」ことを目的にするのはデザイナーではなくアーティスト? 一方、クライアントの指示に従うだけのデザイナーは単なるオペレーター? プロのデザイナーは自分中心ではなく、かと言ってクライアントの指示にそのまま従うのでもなく、クライアント自身も気付いていないクライアントの課題や価値を発見し、それを的確に解決できる表現を創造・制作して本当の意味でクライアントや社会に貢献できる人。
 そう考えるようになりました。
 (次回へ続く)



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。

 台風16号、皆さまのところへの影響はいかがでしょうか。先週から、来るぞ来るぞと言いながら、ここ熊本では三連休の間は多少雨が降った位で大した影響もありませんでしたが、昨日深夜から雨風が強くなりました。今日(20日)は風も止んで曇り空です。この後、四国、近畿、関東、東北方面はまだまだ雨風とも強くなりそうな予報ですので、どうかくれぐれもお気を付けください。

 
−an 弾手−
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